本研究は,電磁回転式非接触トルク印加装置(以下,EMSシステムと称する)による血液の流動特性解析への足がかりとして,濃度・サイズ・力学物性を調整可能な擬似血球を大量かつ安定に自作すること,およびその構造物の分散液が示すずり速度に依存した粘度変化の挙動から,分散体の特性を抽出するためのモデル関数を見つけることを目的としている。疑似血球生成に用いる試料は,アルギン酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液の組み合わせである。10~100ミクロン程度のサイズになると,表面・界面のダイナミクスが液滴の慣性による運動より支配的であり,一方の液滴をもう一方のバルク内に撃ち込んで侵入させることは原理的に困難となる。そこで,両サンプルを液滴として空中に射出し衝突・融合させることで,ゲル膜を有するカプセル形状の構造体(以下,マイクロゲル粒子と称する)を自発的に高スループットで生成する手法を確立した。生成したマイクロゲル粒子を分散させた系は,凝集と再分散を繰り返せること,および沈殿層と上澄み液との比率は,遠沈させても変わらないことを確かめた。この事実から,マイクロゲル粒子の変形の時間応答は数秒以下であることが予想される。分散液の流動特性については,粒子の力学物性評価を直接可能にするような関数の決定までは至らなかったが,特に体内血流のせん断速度範囲内において,粘度がせん断速度のべき乗で変化する挙動を示すことを突き止めた。さらに,沈殿を伴うような分散液の測定スキームについて,単純なせん断速度の連続掃引による測定では,増速時と減速時でデータに違いが生じる,いわゆる履歴を持つことが示唆された。一方で,EMSシステムの特徴である高速回転による再分散機構を,10秒程度ずつ速度変化の合間に差し挟むような測定を行うことで,履歴の影響を受けないデータを得ることに成功した。
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