研究課題/領域番号 |
21K04865
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊東 裕 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (10260374)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 電解質ドーピング / 導電性高分子 / 金属的伝導 / 熱電特性 / 主鎖配向 |
研究実績の概要 |
1.PBTTTの主鎖配向効果:主鎖配向により変化させた薄膜構造と電気伝導・熱電特性の関係を電解質ドーピング法により調べた。前年度までの研究の結果、フローコート法により二色比10を示す主鎖配向膜の作製に成功し、主鎖方向で2倍熱電変換効率が向上した。一方主鎖に垂直方向では、ゼーベック係数の電気伝導度依存性が、金属転移においてべき数が変化するべき乗則から、logσ型に変化し、主鎖に垂直方向では金属的伝導出現による変化がみられなくなることを見出した。この理由を探るべく、電気伝導度の温度依存性を調べたが、絶対値は3倍程度になるものの温度依存性の変化は見られなかった。今年度は、加えてゼーベック係数の温度依存性を調べた。電気伝導が絶縁体的から金属的になるにつれ、金属に特徴的な温度に比例する振る舞いへの変化を観測した。しかし、主鎖配向に起因した温度依存性の異方的振る舞いは今のところみられていない。 2.PBTTT以外の高分子での金属的伝導の探索:PDPP-TTでは、結晶領域境界でのタイ分子による接続が期待され、また研究協力者の田中らによる電子スピン共鳴測定により、スピンコート膜でキャリア非局在化の兆候がとらえられていたが、これまでマクロな電気伝導度には金属的兆候が現れていなかった。これに対し、バーコート法を用い主鎖配向膜を作製し、二色比3程度のPDPP-TT配向膜作製に成功した。しかしこの配向膜にも金属的な電気伝導は見られなかった。その他、PQT-12についても電気伝導度の向上が見られず、また金属的な兆候も今のところみられていない。 3.低分子錯体における金属絶縁体転移の探索:高分子以外の物質への電解質ドーピング法の適応範囲を広げるべく、BEDT-TTF低分子錯体結晶に対する研究を始めた。今年度は、電解質ドーピング法適応の前段階として、歪印加による金属絶縁体転移の探索を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
結晶性導電性高分子PBTTTについて、金属伝導は結晶性領域で発生するが、低温低ドープ領域ではドメイン境界が障壁となり膜全体としてはホッピング伝導を示す。しかし高温高ドープ領域では境界での接続が金属的となり,弱局在あるいは金属的な伝導が膜全体に実現する、というモデルに基づき金属的伝導出現のための条件を見出すことを目指している。PBTTTについては、主鎖配向膜における異方性をこのモデルに従って理解することを目指し、電気伝導度・ゼーベック係数の温度依存性の測定を開始したが、未だ結果を説明できるモデルの構築に至っていない。また、PBTTT以外の高分子PDPP-TTやPQTについては、電解質ドーピング下で金属的な温度依存性を見出すに至っておらず、PBTTTとの違いを説明するモデリングもこれからの課題である。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ、室温付近で金属的伝導が観測されるのはPBTTTに限られている。結晶領域・境界領域からなる薄膜構造に立ち返り、PBTTTの特殊性と金属的伝導出現の条件の解明について、構造測定、光学測定、局所的電気伝導の観点より研究を進める。加えて以下の点について探索を進める。 1.PBTTT主鎖配向膜で現れた異方性の理解:電気伝導測定時の電流経路の分布と、熱電効果測定時の、結晶領域・境界領域への温度差の付き方の違いを考慮することなどを通して、室温における熱電特性の異方性の起源を解明する。 2.PDPP-TTにおける金属的伝導の探索:PDPP-TTに対する高温アニール効果を駆使して、PDPP-TTにおける金属的伝導の有無を見極める。 3.低分子錯体における金属絶縁体転移の探索:低分子錯体に対する電解質ドーピング法による金属絶縁体転移の探索を行い、高分子における振る舞いと比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は、主に着手済みの材料を用いたデバイスの電気伝導特性測定を行い、新規の材料をあまり買う必要がなかった。来年度以降は新しい高分子材料や新規基板材料の入手が必要であるため、高分子材料、基板材料費が必要になる。また、コロナ禍のため、国内会議での出張回数が少なく、旅費の支出が限定的であったが、来年度対面開催に戻れば旅費が必要となる。
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