研究課題/領域番号 |
21K04868
|
研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
沖村 邦雄 東海大学, 工学部, 教授 (00194473)
|
研究分担者 |
中西 俊博 京都大学, 工学研究科, 講師 (30362461)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 相転移VO2素子 / 絶縁体-金属転移 / 電圧印加スイッチング / 自発発振現象 / ヒステリシス幅 / テラヘルツ波の透過偏光制御 / メタマテリアル |
研究実績の概要 |
本研究は68℃付近で絶縁体-金属転移(Insulator-metal transition: IMT)を示す二酸化バナジウム(VO2)薄膜をパターニングしたメタ表面を用いてテラヘルツ波の透過偏光制御に繋がる基礎研究として実施するものである。3年間の研究実施期間において、パターニング電極を持つVO2薄膜の電圧印加スイッチング及び自励発振の実現を探索する。 研究初年度の2021年度は、スパッタ成膜したVO2薄膜に対して研究分担者が所属する京都大学においてTi/Au電極を堆積し、微細加工によって電極幅5000μm, 電極間ギャップ10μmの対向電極を有するプレーナ型素子を作製し電気的特性を評価した。その結果11 V, 200 mAにおいて電圧印加スイッチングが発現したが、電極間の抵抗値が低くジュール発熱が大きいため自励発振には至らなかった。 そこで、2年目の2022年度は導電層であるITO上へVO2薄膜を堆積したVO2/ITO積層膜へプローバー電極を接触させて垂直方向動作を試みた。その結果、2V, 30 μA程度の低電圧、低電流でスイッチングが生じ、適切な直列抵抗を接続したとき200 kHz以上の自励発振が発現した。また、VO2に並列キャパシタンスを接続することでより安定な発振が実現でき、発振周波数も幅広く制御できた。この成果を2022年9月に札幌で開催された国際真空会議(IVC22)において発表した。また、並行して2021年度の結果を踏まえて、VO2薄膜の膜厚を薄くして抵抗値を高めたプレーナー型構造を京都大学において作製したところ、スイッチング時の電流は10 mA程度に抑制され、その結果自励発振に至ることが判明した。2023年度はこのプレーナー型素子を用いて自励発振の測定を進めていく。研究の最終段階においてテラヘルツ波に対して本素子の適用を検討する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の2021年度は、スパッタ成膜したVO2薄膜に対して研究分担者が所属する京都大学においてTi/Au電極を堆積し、微細加工によって電極幅5000μm, 電極間ギャップ10μmの対向電極を有するプレーナ型素子を作製し電気的特性を評価した。その結果11 V, 200 mAにおいて電圧印加スイッチングが発現したが、電極間の抵抗値が低くジュール発熱が大きいため、自励発振には至らなかった。 そこで、2年目の2022年度は導電層であるITO上へVO2薄膜を堆積したVO2/ITO積層膜へプローバー電極を接触させて垂直方向動作を試みた。その結果、2V, 30 μA程度の低電圧、低電流でスイッチングが生じ、適切な直列抵抗を接続したとき200 kHz以上の自励発振が発現した。また、VO2に並列キャパシタンスを接続することでより安定な発振が実現でき、発振周波数も幅広く制御できた。また、自励発振周波数は電源電圧の上昇と共に増加するが、ある電圧以上では発振できないことが判明した。本構造はITOが透明性に優れるため光学透過性に優れることから、テラヘルツ波の透過制御に有利な可能性があるため、今後、電圧印加スイッチングによってどの程度光の透過制御ができるか調べる。また、2021年度の結果を踏まえて、VO2薄膜の膜厚を薄くして抵抗値を高めたプレーナー型構造を京都大学において作製したところ、スイッチング時の電流が10 mA程度に抑制され、その結果自励発振に至ることが判明した。2023年度はこのプレーナー型素子を用いて自励発振の測定を進めていく。研究の最終版においてテラヘルツ波に対して本素子の適用を検討する。
|
今後の研究の推進方策 |
現在用いている比較的広い(5000μm)電極幅を有する電極構造(10μmギャップ)は光透過に有利なサイズとして選定したものであり、2023年度はこの電極を有するプレーナー型素子で電圧印加スイッチングと発振現象についてデータを蓄積する。その後、赤外光を透過させながら電圧印加を試みる。透過光の有意な信号変化が検出できれば、テラヘルツ波に対する高速制御の可能性が拓ける。自励発振実験においては、電源電圧として正弦波や三角波といった時間変化する入力電圧を用いることで、発振周波数を連続的に変えられる。この動作はいわゆる電圧-周波数(V-F)コンバーターであり、新規なVFコンバーターとしても期待できる。発振波形に対してFFT分析を行い、VFコンバーター動作やニューロモルフィックコンピュータへの応用の可能性を探る。 また、2022年度に成果を得たITO上にVO2堆積した積層型構造における自励発振との特性比較を行い、双方の構造的な長所・短所を明確にする。積層型はVO2膜厚方向への電圧印加となるため低電圧動作が可能であり、メタマテリアルへ微細電極を作り込むことでテラヘルツ波の透過制御が可能となる可能性を持つと考えている。ITO上に成長したVO2ではM2相と呼ばれるモット絶縁体的性質の強い構造であり、モット転移の物性的な基礎研究用にも期待が持てる。 積層型とプレーナー型の双方の結果比較を行うことで、テラヘルツ波の透過制御に応用可能な方式を示したい。具体的には4~6月にプレーナー型素子の発振特性の分析を進め、7~9月に光透過実験を行う。これらの成果を基に適切なプレーナー型素子を10~11月に作製し、その特性評価に基づいて本研究の纏めとする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年度はプレーナー型構造での発振実験ができなかったため、当初予定したSEM観察等の分析が必要なく経費の一部使用が無かった。一方、2023年度は2022年度末に発振に成功したプレーナー型サンプルを用いて分析評価を行うため、2022年度分の一部を繰り越した次第である。
|