研究課題/領域番号 |
21K04869
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
今田 真 立命館大学, 理工学部, 教授 (90240837)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シリコンクラスレート |
研究実績の概要 |
アルカリおよびアルカリ土類元素(M) を内包するSi クラスレートは、内包原子M のラトリングが非常に大きくフォノン散乱が顕著なため熱伝導率が低く、熱電材料としての応用が期待されている。本研究ではM = Na のSi クラスレートのNa 内殻光電子スペクトルに、サイトの数より多い本数の多ピーク構造の起源が「ラトリングによって複数の原子位置が実現していること」だと考え、内包サイトのに入る元素を変化させた試料の実験を通して検証し、フェルミ準位付近の電子状態が内包元素M に依存するとともに、Si をGa で一部置換するなどしてケージ元素のp 電子数を変化させることによっても制御できることを価電子帯光電子分光を用いて検証することを目的とする。 2021年度は、(Na/Ba)-Siクラスレートについて、8keVの硬X線を用いたバルク敏感光電子分光を行った。超高真空中で試料を破断して得られた清浄表面について、Na, Ba, およびSiの内殻光電子分光を行うとともに、これらの温度変化を測定した。さらに、価電子帯光電子分光を行い、フェルミ準位付近の電子構造を実験的に観測した。いずれも、NaをBaで置換する前の物質と有意な差が認められ、Ba置換による電子状態やラトリング状態の変化の情報を含んでいると考えられる。第1原理電子状態計算を用いて価電子帯電子状態を推定するとともに、内殻光電子スペクトルのモデル計算と比較することで、電子状態やラトリングについての情報を得ることを目指して解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幸い実験が順調に行え、結果の解析もほぼ予定通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、以下のような研究を進める方針である。 まず、ラトリングの影響を解明するために、Na 内殼XPS の温度依存性を測定する。信頼性確保のために、へき開表面を測定する。さらにスペクトルの光電子エネルギー依存性を測定し、反跳効果の解明から内包原子が受けるポテンシャルの情報を得ることも目指す。 次に、フェルミ準位近傍の電子状態を価電子帯光電子分光を用いて解明する。へき開性のよい組成の試料については角度分解光電子分光を用いて3 次元バンド分散を明らかにする。特に、バンド分散の制御機構解明のために次のような各場合の試料について実験を行う。ケージ構成元素依存性: 原子半径を変化させた場合; 13 族または15 族元素で部分置換した場合; 内包原子依存性: 価数を変化させた場合; 占有率を変化させた場合 さらに、電子相関の強さを明らかにするため、複数の相補的な電子分光実験を行うとともに、国内外の輸送現象の実験結果等と比較することで電子相関の強さを評価する。 内殼XPS の内包占有率依存性: 例えば、内包原子の元素を変えずに占有率を変えることで価電子帯を変化させたときに内殼XPS が変化しなければ、電子相関の内殼XPS への影響が否定される。 共鳴光電子分光: 電子相関の効果が一番強く出るのはNa 3s 状態と期待される。Na 1s→3p 吸収端などにおいて価電子帯スペクトルを測定することでNa 3s 部分状態密度を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終月の人件費の確定に時間を要したため、年度末の短期間で残額を使用するよりも、翌年度分と合わせて研究の進展のためにより効果的に使用する計画である。
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