研究課題/領域番号 |
21K04887
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研究機関 | 東京工芸大学 |
研究代表者 |
安田 洋司 東京工芸大学, 工学部, 准教授 (20460173)
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研究分担者 |
内田 孝幸 東京工芸大学, 工学部, 教授 (80203537)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 低ダメージ成膜 / 透明アンテナ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は酸化物薄膜の高速・低ダメージ堆積技術の確立を目指すことである。特に酸化タングステン(WO3)膜のように昇華性の高い薄膜材料や透明導電膜に使用される酸化インジウムスズ膜(ITO膜)について研究を進めている。 酸化タングステン膜については、通常のスパッタでは数百Vを印加してスパッタを行うことが一般的であるが、本研究では大電力パルススパッタリング(HiPIMS)法を試みて通常よりも遥かに高い電圧(~1000V)で通常のスパッタ放出プロセスに加え金属が局所的に蒸発して放出されるような昇華的なスパッタ手法の確立を目指している。 その一方で酸化タングステンを金属ターゲットを用いてスパッタする場合、金属ターゲットから放出されたスパッタ粒子と真空装置内に導入された酸素ガスと反応させながら堆積する反応性スパッタが一般的である。しかし、通常のマグネトロンスパッタ法ではターゲット表面で生成される酸素負イオンが印加電圧に相当するエネルギーで基板に入射し膜に大きなダメージを与えてしまうことが知られている。そのためガス圧を高くするなどの対策が必要となるが我々は基板角度を変えることによりこのダメージを減らすことを今年度試みた。ターゲットに対し80度以上とすることで酸素負イオンによるダメージが軽減され均一な膜が形成されることが示された。 ITOについては対向ターゲットスパッタ装置の構築と共に新たに透明アンテナ向けITO及び銀の積層構造の堆積を行った。従来60%程度の放射効率であるのに対し、本研究で低ダメージ堆積した膜では90%程度の極めて高い放射効率を示すことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はコロナの影響で全面オンライン授業となり業務量の著しい増加と共に学生の構内立ち入り制限が重なり研究遂行の速度が極めて遅くなった。更に半導体不足、輸送費の高騰などが重なり本研究課題で目標としたHiPIMSスパッタを実現するための電源の購入が難しく納品が遅れた事が重なったことが原因である。現在電源は納品されその条件出しを行っている。低ダメージ法については順調に進行しており、酸化タングステン膜のスパッタにおいてマグネトロンスパッタ法では基板角度を可変することでターゲットから放出される酸素負イオンによるダメージを大きく軽減することが可能となった。 また、対向ターゲット装置を用いたアンテナ向けITO/銀積層構造膜の低ダメージ堆積では、従来50%程度の放射効率の報告が多いものの我々の堆積したアンテナでは90%程度の高い放射効率であった。
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今後の研究の推進方策 |
実験装置の構築は終了したため、以下の方策で研究を進めることを予定している。 高速HiPIMSスパッタ法の開発に関して当初計画していた電流一定でスパッタ電圧を可変しようとするとパルス幅を変えることになり、電流一定にしてもパルス幅の変化が堆積に対し大きな影響を与えることが判明した。そのため、前段階として通常のスパッタ電源を用いるが、プラズマ内に接地されたタングステンワイヤーを挿入することにで電流一定の元スパッタ電圧の可変を試み、酸化タングステン膜の高速堆積条件の最適化及びガスクロミック特性の評価を行う。 マグネトロンスパッタ法と対向ターゲット式スパッタ法で成膜した膜の特性の違いに関しても明らかにすることを予定している。またHiPIMSスパッタ法では反応性スパッタ法を行うことが研究室では初めてであるため、一から条件出しを行い最適化まで推進する。 また、透明アンテナ向けITO/Ag/ITOについては前年度は市販のITO基板を下地層として用いたが、今年度は研究室で下地ITO膜も堆積しアンテナの放射効率の膜厚依存性について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入した電源の価格が見積もりよりも低くなったため。次年度ガラス基板等に使用する。
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