本研究の目的は酸化物薄膜の高速・低ダメージ堆積技術の確立を目指した。酸化タングステン(WO3)膜のように昇華性の高い薄膜材料や透明導電膜に使用される酸化インジウムスズ膜(ITO膜)について研究を進めてきた。 酸化タングステン膜については、通常の直流スパッタで用いられる数100Vのスパッタ電圧よりもはるかに高いスパッタ電圧で堆積することで、高速成膜の可能性を見出してきた。通常スパッタ電流と電圧は独立で決定することはできないためスパッタ電流一定の条件のもと所望のスパッタ電圧に設定することは困難である。そこで、対向ターゲットプラズマ中に接地した金属棒を挿入することで二次電子を吸収させ、プラズマ密度を無理やり減少させることでこの問題の解決を図った。直流電源を定電流モードで動作させることでスパッタ電流を一定に保ったままスパッタ電圧を上昇させることが可能となった。その結果スパッタ電流600mA一定のもとスパッタ電圧を615~820Vの範囲で可変して堆積し、膜表面のモロフォロジーや水素ガスに対するガスクロミック特性を評価した。 一方、ITO膜を透明アンテナに用いる研究が世界中で盛んに行われている。ガラス基板上に膜厚を400~2000nmの範囲で可変し室温堆積したITO膜を用いて、縦20*横5mmのものポールアンテナを作成しその放射特性を評価した。また、ITO膜の低抵抗化を狙い大気中で200~400℃のアニール処理を行い放射特性に与える影響を考察した。アニール処理を施すことでシート抵抗値は大きく低下し、400nmのアズデポ膜で26Ω/sqであったものが12Ω/sqに、2000nmの膜は7.4Ω/sqであったものが2.9Ω/sqであった。放射特性はシート抵抗値の低下とともに向上し2000nm、400℃でアニール処理したITO膜で70.8%という高い放射効率であった。
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