本研究提案では再生方法の一つであるPIE(Ptychograhical Iterative Engine)を用いた位相再生において、物体が薄い多層から構成されるとして計算することで多重散乱の影響を取り込んだ位相再生方法を行い、多重散乱の影響が無視できない一般の試料でのタイコグラフィーによる位相再生の正当性を担保するとともに、通常のタイコグラフィー再生の適用範囲を明らかにすることを目的として研究を進めた。 今年度は開発しているPIEのコードのMultislice再生の開発と多波動力学計算による厚い試料からの回折のシミュレーションデータからの位相回復のテストを引き続き実施し、実験データ取得の際の位相再生に必要な倍率、カメラ長、スキャン刻み、取得デフォーカスの組み合わせを検討した。またプローブが複数のモードの足し合わせからなる場合の再生コードの開発を行い、テストを実施した。 開発されたコードを用い、深さ毎に異なる構造を仮定したモデル試料でのシミュレーションデータに対して位相再生を実施したところ、深さ毎に構造を分解した結果を得る事が出来た。また、実験に於いてもカーボン膜状に作製した金微粒子に対して適用し、金の格子像を再生することに成功した。また、このデータに対してMultislice再生を実施したところ、層毎に異なる物体関数を得る事に成功した。また、研究期間全体では関連する成果として開発したタイコグラフィーのコード群の一部を使用し、タイコグラフィーの位相再生法の一つであるWigner Distribution Deconvolution(WDD)法を用いて位相再生を行う事で、これまで直接観察することが難しかったゼオライト中の添加金属の直接観察に成功し論文に発表した他、4次元データを連続的に取得することで、位置毎の回折図形の時間変化を観察する手法を提案し論文に発表した。
|