研究課題/領域番号 |
21K04899
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山田 類 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (40706892)
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研究分担者 |
才田 淳治 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 教授 (20359540)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 金属ガラス / ガラス状態傾斜 |
研究実績の概要 |
これまでの研究で、Zr系金属ガラスロッド試料を水平面より24°傾けて治具にクランプし、それを過冷却液体温度域まで加熱後、下側の治具のみを液体窒素を用いて間接的に急冷することで、金属ガラス内にガラス状態の傾斜を形成することを試みてきた。熱処理後の試料の比熱測定ならびにインデンテーション試験結果から、当手法を通じて1試料内にガラス状態傾斜が形成されていることが明らかとなった。 前年度までの結果を踏まえて、本年度ではまずその傾斜形成メカニズムについて検討を行った。試料自身の熱伝導率が傾斜形成に重要な要素であると考え、Zr系金属ガラスの熱伝導率を測定したところ、通常の金属より低いことが明らかとなった。その値は他の金属ガラスの報告例と同程度であったことから、Zr系のみならず、他の金属ガラスにおいても当手法を用いたガラス状態傾斜形成が可能であることが示唆された。また、当熱処理は真空下で行っており、試料を治具にクランプする際、治具間に100μm程度の隙間をあけて試料をセットしている。そうすることで真空間や熱伝導率が高い治具間において熱の移動が遮断され、熱伝導率の低い金属ガラス試料内を熱が移動することを通じて、加熱・冷却時に1試料内に温度傾斜が形成される。そのことがガラス状態傾斜につながったものと考えられた。 本年度はまた、傾斜を形成した試料の圧縮試験を行った。急冷側と徐冷側にひずみゲージを貼り圧縮試験時のひずみを測定した結果、それらの間で挙動が異なることが明らかとなった。 傾斜形成メカニズムの解明を通じて、今後より自由にガラス状態傾斜が形成可能となり、またガラス状態に応じて機械的特性が異なることが示されたことで、当手法を通じた機械的特性のデザイン可能性が強く示唆され、重要な知見が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度では、申請者らが提案している熱的手法を通じた傾斜形成メカニズムを明らかにすることができた。これを通じて様々な合金系への適用可能性が示され、当手法の適用範囲の拡大につながったものと考えている。また機械的特性評価も行っており、徐冷面においてわずかながらのびの発現が見られた一方で、急冷面ではのびがほとんど見られず、1試料内で異なる機械的特性が発現していることも明らかとされた。ただ当初の目的であった圧縮方向に対して最適なガラス状態傾斜方向は依然明らかとなっておらず、現在までの進捗状況はやや遅れをとってしまっている。 本年度に、水平面に対して90°傾斜を形成した試料の作製も試みたが、試料を均一に加熱することができず、試料上部と下部の両方を過冷却液体温度域まで加熱することができていない。このため現在までは0°と24°傾斜の試料の作製のみができており、90°傾斜試料の作製には、試料を均一に加熱できる装置機構を検討する必要があると考えている。 本年度において、傾斜を形成した試料のDIC測定を行う予定であったが、DIC設備の構築に時間がかかってしまい、その測定は依然達成できていない。ただ、本年度に概ねその機構が構築できたため、実際のひずみ分布の可視化は次年度の課題として行うことを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は種々の角度に傾斜を形成した試料の機械的特性評価に重点を置いて研究を行っていきたいと考えている。本年度に圧縮試験は行ったが、まだ実験数が少なく、今後実験数を増やすことで再現性を確認する必要がある。また、圧縮試験後の試料の破面観察も行っていく必要がある。亀裂の進展角度やベインパターンの形状、シアバンドの発生具合等をSEMを用いて詳細に観察し、ガラス状態傾斜形成が破壊に及ぼす影響やそのメカニズムを明らかにしていきたいと考えている。また、DICを用いて圧縮時のひずみ分布を測定することを検討している。圧縮開始から最終破断に至るまで、内部に生じるひずみ分布をDIC測定を通じてIn-situで観察し、形成された各部分でのガラス状態と変形挙動とを対応させて、破壊機構を検討していきたいと考えている。 これら得られた知見を通じて、当初の研究目的であった圧縮方向に対して最適なガラス状態傾斜方向を明らかにすることを目指す。
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