金属ガラスは、室温にて高強度特性を示す一方、応力負荷時の最終段階において突発的に破断が生じ脆性特性を示す。これまでこの脆性特性が金属ガラスの実用化への大きな課題となっていた。 本研究課題ではランダム構造の異方性(ガラス状態傾斜)という概念を用いて、アモルファス相単相での高靭性化を図った。広く研究に用いられているZr50Cu40Al10金属ガラスを用いて、過冷却液体温度域まで加熱後、試料の一部分を選択的に冷却することを通じて1試料内にガラス状態傾斜の形成を試みた。様々な角度に試料を保持できるサンプルホルダーと急冷装置機構を新たに構築し、金属ガラスロッド試料に熱処理を行った。ロッド軸方向が水平面と平行になるように試料を保持できるホルダーを用いて熱処理を行ったところ、ロッドの断面方向に2次元的にガラス状態傾斜を形成することに成功した。またこの傾斜形成には、金属ガラス試料自身の熱伝導率の低さとサンプルホルダー間のギャップの存在が重要であることを明らかにした。 最終年度には当該試料の破壊試験ならびにDIC解析を行い、前者においては圧縮試験時にわずかではあるが伸びが発現していることが明らかとなった。またDIC解析の結果と併せて、破壊時の亀裂進展がガラス状態に沿って屈曲し、その間マルチシアバンドが発現することで、脆性改善が達成されていることが明らかとなった。 さらにサンプルホルダーを変え、ロッド軸方向を水平面より24°傾斜させたものを用いることで、2次元だけでなく3次元的にもガラス状態傾斜を形成することに成功した。 本研究課題を通じて、熱的手法によりガラス状態を所望にデザインし、それが高靭性化につながる可能性を示すことができた。
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