溶液成長は,パワーデバイスであるSiCから有機高分子であるタンパク質の結晶化まで、極めて幅広い分野で用いられており、重要な技術となっている。このため、溶液から成長する様々な材料における結晶の完全性を制御するための普遍的なプロセスを構築するためにも、溶液成長における結晶成長機構の解明は重要となる。溶液から結晶が成長する際には、溶液に存在する分子は多数の水分子で囲まれた水和状態にある。それらが結晶に取り込まれるには、水のジャケットを脱ぐ必要がある。つまり、溶液成長では各々の過程において脱溶媒和過程が存在し、この過程の存在が溶液成長を特徴付けている。 これまでの研究で、結晶内に存在するタンパク質分子周りに結合した水分子の結合状態に注目し、ラマン散乱測定を行い、水分子のダイナミクスが速くなるほど、タンパク質分子周りに結合する水分子の量が減少することを明らかにした。そして、このタンパク質分子周りに結合する水分子の量の減少が、ステップ自由エネルギーのエンタルピー項の増加を引き起こすことを明らかにした。これにより、ステップ自由エネルギーが増加し、結晶内に不純物が取り込まれ難くなり、育成される結晶の完全性が向上することを示した。特に、タンパク質分子周りに結合する水分子のダイナミクスが速くなる育成条件では、X線トポグラフィにおいて、完全結晶に起因する干渉縞も観察することができた。ゆえに、溶媒和構造を制御することは、高品質タンパク質結晶の育成において極めて重要となる。
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