本研究では,ワイドバンドギャップ硫化物半導体,とくにZnS系半導体において,その価電子帯の深いエネルギー位置が電気伝導においてp型が得られにくい単極性に大きく関与しているとの考えに基づき,バンド端エネルギーと電気伝導性との関係を明らかにし,ワイドバンドギャップと実用的なp型特性を両立することを目指し,さらには他の材料系にも適用可能性のある知見を蓄積することを目的とした.研究実績の概要を以下に示す. (1) 高品質ZnMgSTe混晶の作製条件の検討:本研究の主な対象物質であるZnMgSTe 4元混晶においては完全性の高い結晶の成長は容易ではない.そのため分子線エピタキシー法による結晶成長において,特にTe/S原料供給比およびMg/Zn原料供給比を精密に制御し,より精密な組成制御,結晶性制御を実現した.また,フォトルミネッセンススペクトルなど光学的特性からも結晶性改善の裏付けを得た.また,緑色領域を含む発光の機構を検討し,ZnSTeと類似ながらより強い発光が得られることを示した. (2) p型ZnMgSTe:Nにおける正孔濃度のTe組成依存性の詳細検討:高品質ZnMgSTeをベースに,Te,Mg組成を変化させつつプラズマ化した窒素ガスからNアクセプタを添加してp型化を図り,結晶学的・光学的・電気的特性等の評価から,Te組成依存性等を検討するためのデータを蓄積した. (3) p型ZnMgSTeにおける正孔濃度およびバンドギャップの最適化:p型化には概ね20%程度以上のTe組成が必要であり,Mg組成にはあまり依存しないという結果が得られた.さらにGaAs基板との格子整合条件を考慮すると,Mg組成52%,Te組成18%,バンドギャップ3.4eV(室温)あたりがp型とワイドバンドギャップを両立できる条件である可能性が示された. (4) 電気伝導性決定モデルの検討:これまでに得られている結果は,p型化の可能性が価電子帯上端のエネルギー位置に依存するという本研究開始時点の仮説と矛盾しない.
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