研究課題/領域番号 |
21K04916
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
加野 裕 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (80322874)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 集束表面プラズモン / 顕微測定 / 屈折率測定 / 銀表面のポリマーコーティング / 銀表面の親水化 |
研究実績の概要 |
本年度は,集束表面プラズモンを測定プローブに用いた生体細胞の複屈折分布の可視化に向け,集束表面プラズモンを励起することができる基板上での生体細胞の培養を試みた.集束表面プラズモンを可視域で励起するとき,銀を用いると,金などを用いる場合と比べ,伝搬定数のピークが先鋭化させることができるが,銀は化学的に安定でないため,これまで,シリカのスパッタ薄膜で表面保護を行っていた.この基板を用い,ステージ2がん細胞の培養を試みたところ,シリカスパッタ膜の崩壊が確認され,細胞を培養することができないことが分かった.実験的な検証の結果,細胞培養に用いた培養液(DMEM)が要因となっていることを確認した.そこで,表面プラズモンセンシング基板の表面の保護にポリマー薄膜を用いる検討を行った.表面プラズモンセンシングでは,表面プラズモンが形成する電場はエバネッセント波となって局在し,金属表面から離れると指数関数的に減衰するため,保護膜の膜厚は測定感度に大きな影響を与える.これを考慮して,ポリマー薄膜の膜厚の目標値を10~20nmに定め,材料と成膜法の選定を行い,ポリメチルメタクリレイト(PMMA)をトルエンを溶解させ,スピンコーティング法で成膜することとした.その試行段階では,目標とする膜厚での成膜においては,膜厚が不均一になることが確認された.そこで,PMMAトルエン溶液を滴下する前に,銀表面に大気圧低温プラズマを照射し,銀表面の親水化を試行した.その結果,特定の照射条件において,銀表面の顕著な親水化を確認することができた.つづいて,PMMAの成膜を行,その評価を集束表面プラズモン顕微鏡で行った.測定領域15マイクロメートル平方とし,64 x 64点で表面プラズモンの伝搬定数を測定した,これをPMMAの膜厚に換算すると,目標とする膜厚で,均一性の高い薄膜の成膜に成功し,再現性も確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
表面プラズモン励起に用いる基板上で細胞培養を試みたものの,培養液が基板のシリカ保護層を崩壊させることが問題となった.これに対し,PMMAを保護膜の材料とし,スピンコーティング法によって極薄膜を成膜する方法を検討し,銀表面を大気圧低温プラズマ照射によって親水化する処理を導入することによって,その実現に成功した.できることを確認した.さらに,成膜したPMMAの極薄膜の膜厚,均一性を,集束表面プラズモン顕微鏡によって評価し,集束表面プラズモン顕微鏡法での利用に適した基板を作成できていることを確認できた.以上より,細胞培養に向けた問題を解消することができたため,次年度において計画している細胞培養を試行し,その評価を行う予定である. 以上より,研究計画は当初に想定していなかった問題が生じたものの,これを解決する方法を見いだし,当初目標に向かって研究を進めることができる状態にある.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の知見を下に,細胞に用いる基盤策を行う.超高屈折率基板表面に真空蒸着法で膜厚55nmの銀薄膜を成膜し,その表面をアルゴンガスの大気圧低温プラズマを照射することで親水化し,これにPMMAトルエン溶液を滴下してスピンコーティングし,膜厚15nmのPMMA保護層を成膜する.この基板のDMMAに対する耐性を検証した後,ステージ2がん細胞の培養を試みる.さらに,集束表面プラズモン顕微鏡を用いて,主に細胞接着斑の周囲を中心に,集束表面プラズモンの伝搬定数計測を行い,伝搬定数の方位依存特性から複屈折の検出を試みる.当初予定の細胞の培養に問題が生じたら,神経細胞など,他の細胞の計測を試みる予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に参加予定していた国際会議の一つがオンライン開催となったため,次年度に開催予定の国際会議への参加に伴う海外出張経費に充当することとした.
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