集束表面プラズモンを測定プローブとして複屈折の顕微分布を測定する手法を生体細胞観察に応用するため,表面プラズモンを励起可能な基板表面での細胞培養の実験を継続した.前年度に見出した手法により,表面プラズモンを励起する銀の表面をポリマー(ポリメチルメタクリレート)薄膜で保護する処理を行った.この基板に対し,ラットの神経細胞(後根神経節)を培養し,その基板の顕微領域からの反射光空間周波数スペクトル測定を行った.その結果,基板の銀を劣化させずに培養は行えたものの,周波数スペクトルは基板表面で生じる多重散乱に起因すると思われる背景雑音が支配的になってしまい,集束表面プラズモンの伝搬定数を決定することができなかった.ポリマー保護膜と培養細胞の間への不純物混入が,背景雑音を発生させた原因と考えられ,細胞培養条件の精査が課題として残った. また,複屈折を示す媒質と相互作用した集束表面プラズモンが示す空間周波数応答から,複屈折媒質の光学軸方位,常光線,異常光線に対する屈折率を求めるプログラムの改良を行った.このプログラムでは,空間周波数スペクトル画像において,楕円化した周波数スペクトルパターンの中心,長軸の長さ,楕円率,長軸の方位の5つのパラメーター推定を非線形収束法(シンプレックス法)によって行う.シンプレックス法において,より高い評価値を与えるパラメーターセットを探索する際,候補となるパラメーターセットの選択肢を増大させるとともに,その序列を調整し,探索不能となる状況が回避できるようにした.これにより,複屈折を生じさせる光学軸の方位推定の精度が向上した.
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