研究課題/領域番号 |
21K04917
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
藤村 隆史 宇都宮大学, 工学部, 准教授 (50361647)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ホログラフィックメモリー / 位相検出 / クロストーク / イタレーション |
研究実績の概要 |
本年度は、周囲の光強度の情報を考慮した位相決定アルゴリズムとして、イタレーションを用いた位相決定法について検討を行った。この方法では、まず従来と同様に隣接したピクセルの境界強度から信号位相を算出し、それを初期の位相分布とする。この位相分布をもとに、ピクセル拡がり関数を用いて電場分布を計算して境界強度を算出する。これと実際の光強度画像の境界強度を比較し、境界強度が大きく異なっている部分の位相を変更して新しい位相分布とする。境界強度の差異が最小になるように上記の作業を繰り返す。本研究では、このようなイタレーションを用いた位相決定法の特性をシミュレーションにより調査した。以下に、その結果をまとめる。 1. エラー低減効果: イタレーションによるエラー低減効果は、フーリエ面に挿入する開口サイズの大きさ、すなわちクロストークの大きさに依存する。大きすぎるクロストークは、本手法によってもエラーを低減できず、逆にエラーが増加する。しかし実際の使用が想定される開口サイズの範囲ではエラー低減の効果が十分得られ、大きいところではエラーレートを2桁程度低減することができた。 2.考慮すべき遠方ピクセルの範囲: イタレーション後の最終的なエラーレートは、考慮すべき遠方ピクセルの範囲を拡げても、ある一定値までしかエラーを低減することができない。したがって、位相の判定速度(計算量)の観点から、フーリエ面に挿入する開口サイズにあわせて適切な範囲を選択する必要がある。 3. 初期位相の重要性:初期位相分布のエラーレートが低ければ低いほど、最終的なエラーレートが低くなる。このことは初期位相分布としてランダム位相などを設定すべきではなく、従来の最小値探索法などを用いて適切に初期位相分布を設定することが重要であることを意味する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度開発したイタレーションを用いた位相判定法は、従来の最小値探索法と比べて劇的にエラーレートを低減することができた。一般的にシステムが補正できる限界エラーレートよりも小さなエラーレートが得られれば、その余剰分を、ホログラム面積の縮小化、多値数の増加に割り当てて、記録密度を増加させることができる。これまでの位相判定法である最小値探索法を用いた場合には、強度2値方式の記録密度と比べて、約1.5倍程度の記録密度が実現できる見通しであったのに対し、今回のイタレーションによる位相判定法では、エラーレートの低減によって、約2倍程度まで増加させられることがわかった。これは、干渉計測が必要となる通常の4値位相多値信号の記録密度限界とほぼ同程度の値であり、十分な成果が得られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた記録密度は、位相4値多値信号の値としてはほぼ限界に近い値であると考えられる。次年度以降は、ベースとなるコードレートをあげてさらなる記録密度と転送レートの改善をはかる。具体的には、位相多値数の増加や、振幅情報も信号に組み込んだ振幅位相多値信号へ信号符号の範囲を拡張する。これまでに得られた知見をベースにしながら、適切な位相決定アルゴリズムを見出すとともに、どのような信号符号が近接しているときに、エラーが生じやすいかという本手法特有のエラー特性を明らかにすることを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は数千円程度であり、今年度は概ね予定通り使用したといえる。残額は、次年度の消耗品費として使用する。
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