研究課題/領域番号 |
21K04923
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
兵頭 政春 金沢大学, 機械工学系, 教授 (30359088)
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研究分担者 |
張 贇 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (00508830)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 2モード発振レーザ / 複屈折性結晶 / 直交偏光 |
研究実績の概要 |
2つの縦モードで同時に発振する2モード発振マイクロチップレーザの出力光(2つのモード光はともに鉛直方向の直線偏光)を直交偏光状態に変換するため,出力光を長さ17 mmのLiNbO3複屈折性結晶に導入して,偏光子と光スペクトラムアナライザを用いてその透過光の性質を入念に調べた.その結果,一方のモード光を消光させると他方のモード光の透過率は常にほぼ最大になり,2つのモード光がほぼ完全な直交偏光状態に変換されることを確認した.その一方で,それらの偏光状態は結晶の温度変化の影響を強く受け,4.0 rad/℃のレートでドリフトすることが明らかになった.そこで結晶全体を覆うことができるアクリル樹脂製のエアシールドを自作し,その内部にペルチエ素子と熱交換用ヒートシンクを配置し,シールド内部に恒温の空気を循環させることにより,結晶の温度変化が±0.01℃以下になるように負帰還制御を行った.その結果,シールド効率(室温の変化に対する結晶の温度変化の割合)として1/25の性能が得られ,透過光の偏光状態を長時間安定に維持することができるようになった. 結晶の温度を安定化した状態で透過光の偏光状態の波長依存性を測定し,波長の変化に対して偏光状態がほぼ直線的に変化することを確かめ,101 GHzの周波数差に対するδ値の差がほぼπ/2になることを確認した.さらに,結晶の印加電圧を変化させて出力光の偏光状態を追跡する方法で半波長電圧を測定したところ,2つのモード光の平均として1.68±0.02 kVの値を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では,予備実験の知見を基に,2波長マイクロチップレーザーの出力光を直交偏光状態に変換するために最適な長さ17 mmのLiNbO3結晶を用いて偏光状態の変換実験を行い,位相変調効率の低下につながる要因を明らかにし,分担者と協力して位相変調効率の±3dB帯域幅などの性能評価指数を明らかにすることが目標だった.実際には偏光状態の変換実験だけでなく,位相変調効率の低下につながる要因として結晶の温度変化の影響が極めて大きいことを明らかにし,エアシールドを自作して結晶の温度制御を可能にした.さらに偏光状態の波長依存性や結晶の半波長電圧の精密測定にも成功し,目標を大きく上回る成果を挙げることができた.その一方で,変調効率の±3dB帯域幅などの性能評価指数については着手することができず,次年度以降に先延ばしとなった.以上を総合して研究は概ね順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
自作したエアシールドは効果的に機能しているものの,シールド効率は1/25程度であるため,室温の変化が大きい場合は偏光状態の変動が無視できなくなる.そこで複屈折結晶の電気光学効果を用いて,透過光の偏光状態の変動を負帰還制御する技術を開発する.この場合に問題となるのは,周波数差がたかだか101 GHzの2つのモード光を分光し,それぞれの偏光状態を測定する必要がある点である.そこで,高分解能の光スペクトラムアナライザを用いて結晶の透過光を分光し,ポラリメトリーを併用して個々のモードの偏光状態を測定し,PCを用いて負帰還制御を試みる.この方法では高価な光スペクトラムアナライザが必要となり,しかも制御帯域が光スペクトラムアナライザの掃引速度によって制限されてしまう問題がある,そこで,光スペクトラムアナライザの代わりに偏光子とフォトダイオードだけを用いて,2つのモードの偏光状態を安定に維持する方法を考案し,負帰還制御実験を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
エアシールドの開発経費が当初の想定よりも安価だったため,次年度使用額が発生した.ただしシールド効率は1/25に留まっており,その性能はまだ十分とは言えない.そこで次年度以降に断熱構造の付加と熱応答速度の改良を行う計画であり,次年度使用額を主にそれらの経費として使用する予定である.
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