研究実績の概要 |
本来,IV-IV族化合物であるSiC結晶の硬さは共有結合強度に由来し,その本質は核間領域の電子軌道の重なりの大きさである.これは重なりを大きくすれば理論的には硬くなると理解できる.共有結合性結晶は圧縮強度が結合距離の3.5乗に反比例するとされ,SiCでも約10%の収縮でダイヤモンドに匹敵する.このことは,もし結合距離を一様に収縮できれば理論強度を超えられる可能性を示唆する.これを照射による格子位置交換の蓄積で実現できるのではないかということが本課題の「問い」である.本研究ではこの答えを,SiCマイクロピラーにイオン照射によってアンチサイトを導入し,その強度変化を追うことで明らかにするこ とを目指している. そこで、室温以下でSiC高結晶繊維(Hi-Nicalon Type SおよびTyranno SA繊維)をイオン照射し,原子の拡散がほとんどない状況でいかなる結晶構造変化が生じるか,また,それが強度にどのような影響を及ぼすかを調査した.室温照射のため開発した水冷ホルダ上で照射した試料は,著しい変形を伴う体積膨張が認められそれが結晶の非晶質化と不純物との混合により発生した.この試料からマイクロピラーを作製し,強度特性変化を調査したところ,非晶質化に伴って強度が低下しているにもかかわらずヤング率の低下と伸びが著しく増加していることがわかった.これは、当初の予想とは異なりイオン照射によってセラミックスに一種の柔らかさを付与できたことを意味する。本研究結果は論文としてまとめJournal of the European Ceramic Society(Volume 43, Issue 12, September 2023, Pages 5125-5135)にて発表した。
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