本課題では、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅率がサンプルの鋳型DNAの量に比例することに着目し、未損傷鋳型DNA量を評価する手法を確立する。 本手法については、低LET(線エネルギー付与)放射線に属するガンマ線を照射した場合のDNA鎖の損傷に対してPCRによる評価を行ってきた。そこで2023年度は、高LETに属する炭素線を照射した場合のDNA損傷について評価した。また、PCRを用いた本手法により、DNA鎖切断やAPサイト(脱塩基部位)切断および塩基の酸化といったDNA損傷の種類を区別できるかどうか明らかではなかった。そこで本研究では、ガンマ線を照射したDNAに対し、APサイトおよび酸化塩基を鎖切断に変換する酵素処理を行うことで、損傷の種類を区別できるかどうか検証した。 結果として、炭素線(LET:13.3keV/μm)を照射した場合、ガンマ線を照射した場合と比較して未損傷の鋳型DNA量が増加した。1GyではDNA損傷の収率が約3%高くなることが示された。これはガンマ線照射と比較して、炭素線によって、PCRを阻害するDNA損傷が多く生じたことを意味している。また、APサイトと酸化塩基を鎖切断に変換するFPG酵素を処理させた場合、未処理の場合と比較して、ガンマ線1Gyを照射した際の未損傷の鋳型DNA量は減少した。さらにAPサイトのみを鎖切断に変換するEndnuclease(III)酵素を用いた場合は、未処理の結果と差異がないことが示された 。このことから、1Gyのガンマ線照射によってはAPサイトは生じず、塩基の酸化は生じることが示された。この結果により、PCRによりDNA損傷の種類を区別できる可能性が示された。
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