研究課題/領域番号 |
21K04947
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研究機関 | 広島工業大学 |
研究代表者 |
松岡 雷士 広島工業大学, 工学部, 准教授 (50455276)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 原子・分子物理 / 反応・分離工学 / 半導体レーザー / 核変換 / 飽和吸収分光 |
研究実績の概要 |
放射性セシウムを同位体分離することが出来れば、核変換による無害化が可能となり、地層処分における漏洩リスクを回避することができる。これまでの研究において「光誘導ドリフト」を利用した分離スキームが有効であることは物理的・実験的に実証が出来ている。本研究ではさらなる想定処理効率の向上を目的とし、新規実験システム開発・処理速度を決定する物理的な機構の解明・分離試験に向けた装置開発などを実施し、将来的な放射能分離試験のための技術基盤を開発する。 初年度はセシウム原子D1線(894 nm)を励起するためのレーザーシステム開発を中心とし、既に構築済みの852 nmのレーザーシステムの改善や信号取得のための基盤技術の実験的検証などを行った。 894 nm のレーザーとしてSacher Lasertechnik社のマイクロンレーザーを基軸としたシステムを設計し、開発を進めた。また、波長標準として垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)を使ったシステムを設計し、Dichroic Atomic Vapor Spectroscopy (DAVS)を使ったサブシステムを設計した。既に稼働している852 nm の分布帰還型レーザー(DFBレーザー)について問題となっていたノイズの検証・対策を行った。また、セシウム同位体比を密封定量計測する変調伝搬分光の基礎過程とし、飽和吸収分光に関する理論的・実験的検討を実施した。ロックインアンプ使用の有無や原子の密度による信号変化を数値的に検討し、さらにプローブ光の強度による信号の変化について系統的な信号取得を行った。飽和吸収分光は既に歴史のある分光法であるが、様々な信号変化の要因を整理し、既存の文献における誤解の検証なども行うことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験システムのメインとなる半導体レーザー素子の納期が大幅に遅れ、システム全体の開発に時間をかけることが出来なかった。代替として、同位対比計測の基礎となる飽和吸収分光のシグナル変化要因についての基礎的な検証を行うことは出来た。
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今後の研究の推進方策 |
(1) セシウム原子D1線励起レーザーシステムの開発、(2) D1線波長標準の開発、および、(3) 飽和吸収分光シグナルの変化要因の解析について継続して進める。(1) については既にレーザー素子は購入してあり、配線と計測・評価のためのシステムを構築中である。(2) については852 nm において既に実績があるが、今回購入したVCSELによって実装が可能かどうかはスペックシートのみからでは判断できず、実験を始める段階である。(3) については2021年度に予期せぬ結果が得られているため、その検証を含めて系統的な実験を進める。結果についてまとまり次第、変調伝搬分光のシグナル検証を進める。同時に、光誘導ドリフト観測のための真空容器、セシウムセル、蛍光観測システムなどの再立ち上げ・整備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
「基盤研究(C)」及び「若手研究」における独立基盤形成支援(試行)に採択されたため、基盤整備分の予算を先行して執行して実験のための環境を整えた。同時に、新型コロナ・半導体不足などの影響によりシステムのメインとなる実験装置群の納期が遅れ、それらの装置を評価しながら試行錯誤する予定であった光学システムの消耗品購入などについて、次年度に繰り越しとなった。 遅れはあるが、次年度も当初計画通りに使用を進める。
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