2023年度は、申川油田における微生物トレーサ法のモニタリングを継続した。各試料からDNAを抽出し,試料中の微生物叢を16S rRNA遺伝子を指標として解析した。特定の微生物種についてリアルタイムPCR法による定量的な測定を行い,微生物叢解析の結果と良好な一致を見せた。コサイン類似度およびジャッカード距離により、各試料の微生物叢プロファイル間の類似性および不同性を比較し,類似性に基づいたクラスタリング解析を行った。各クラスターとサンプル種別(生産水または圧入水)や地層,井戸の位置などに相関があることが示され,微生物叢がその試料の由来する地下環境の指標として利用できることが示唆された。これら結果から,各貯留層の生産への寄与度,断層による遮蔽,圧入水のブレークスルーなどについて原位置の情報が得られ,同油田における水圧入の最適化に寄与している。以上より,地下資源開発における微生物トレーサ法の有用性が明らかとなった。さらに,同手法の他の油ガス田や地下水(河川水、地下水など),地下備蓄施設等など多様な地下環境での実証を行い,より幅広い利用可能性を検討した。特に,油田由来の水試料について,微生物トレーサ法と同時に,水試料のイオン濃度等の化学分析を行ったところ,微生物トレーサの分析結果と良好な合致を示した。このことから,微生物トレーサと既存の自然トレーサを組み合わせることで、さらに高解像度の情報が得られることが示唆された。
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