研究課題/領域番号 |
21K04975
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
奥野 将成 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00719065)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ハイパーラマン分光 / 非線形分光 / 生体分子 |
研究実績の概要 |
本研究では近年さまざまな系へと応用が可能になってきたハイパーラマン分光法を、生体分子をはじめとする複雑な分子系へと適応することを目的としている。初年度に得られた研究の成果は以下のとおりである。 (1) アミド結合のモデル分子であるN-methylacetamide(NMA)およびdimethylformamideをハイパーラマン分光法で測定し、今後のハイパーラマン分光法のペプチドおよびタンパク質分子に対する展開の基盤を形成した。NMAについて、以下の詳細な解析を行った。赤外・ラマン分光法で得られたスペクトルとの比較を行い、ハイパーラマン信号がそれらと異なるユニークなスペクトル・パターンを与えることを見出した。特に、アミドIバンドについては赤外・ラマンスペクトルのピーク位置とそれぞれ異なった位置にハイパーラマン信号が得られ、これをノン・コインシデンス効果によるものであると考えた。ハイパーラマン分光におけるノン・コインシデンス効果は本研究で初めて観測されたものである。また、入射光波長を変えた測定を行い、さらに偏光分解測定から偏光解消度を見積もることで、可視光励起では二光子電子共鳴効果の影響が顕著に出ていることを見出した。 (2) ポリペプチドを用いたハイパーラマン分光測定を行った。ポリ-L-グルタミン酸(PLGA)およびポリ-L-リシン(PLL)の水溶液を、温度およびpHを変化させることで二次構造を制御した測定を試み、二次構造とハイパーラマンスペクトルの相関を検討した。現在再現性を確認中であるが、二次構造の変化に伴ってハイパーラマン信号が変化していると思われる結果が得られている。 以上の研究から、ハイパーラマン分光法によってタンパク質分子の構造を赤外・ラマン分光法と相補的に研究できることを示したといえる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画当初では、初年度にNMAの測定のみを行うことを計画していた。実際にNMAについて、その基礎的な情報である水素結合および電子共鳴効果がハイパーラマン信号に与える影響を初めて明らかにすることができた。それに引き続き、NMAと同様にペプチド結合のモデル分子であるdimethylacetamideの測定を行い、NMAの結果と比較した。また、2年次に行う予定であったPLGAおよびPLLの測定を前倒しで行うことができ、その二次構造と水溶液の条件検討を行うことができた。これらの知見は2年次に行う研究に非常に有用であり、当初の計画以上に研究が進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
2年次はポリペプチド水溶液のハイパーラマン分光測定の再現性を得ることをまず目的とする。その結果を紫外共鳴ラマン分光と比較し、ハイパーラマンスペクトルの特徴を抽出する。また、ポリペプチドの測定が終了し次第、最終年度に行う予定であったタンパク質水溶液の測定へと移行する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画よりもスムーズに研究が進んだため、光学素子や化学試薬などの消耗品の使用額が低くなり、次年度使用額が生じた。繰り越した助成金を用いて、2年次に高額なペプチド試料を用いた測定の再現性を確認する。
|