研究課題/領域番号 |
21K04979
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上田 貴洋 大阪大学, 総合学術博物館, 教授 (70294155)
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研究分担者 |
飯山 拓 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (30313828)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 分子ふるい材料 / 柔粘性多孔質結晶 / 過渡的ゲート吸着機構 / 金属有機複合体 / 蒸気吸着速度 / 拡散 / 活性化エネルギー / 活性化エントロピー |
研究実績の概要 |
柔粘性多孔質結晶の一種であるZIF-8([Zn(C4N2H5)2]n;Zeolitic Imidazolate Framework-8)の気体吸着機構として見出された「過渡的ゲート機構」は、吸着分子の開口部への衝突と架橋配位子の動的揺らぎが協同して吸着分子のゲート通過を可能にする新しい吸着機構である。本研究課題では、ZIF-8の吸着速度を支配している因子を精査し、架橋配位子の動態を制御することで、吸着分子の平均速さによって分子をふるい分ける新しい分子ふるい材料への展開を目指す。 令和3年度は、ハロゲン置換体である2-ハロゲン化イミダゾール(C3N2H3X; X = Cl, Br)を用いたX-ZIF-8を合成し、ベンゼン分子をプローブとして吸着速度を調べた。その結果、(1)窒素の飽和吸着量は細孔容量に比例するのに対し、ベンゼンの飽和吸着量はZIF-8において特異的に吸着量が増大した。(2)ベンゼンの拡散の活性化エネルギーは、Br-ZIF-8 > Cl-ZIF-8 > ZIF-8の順に低下した。(3)活性化エントロピーは、ZIF-8 > Cl-ZIF-8 > Br-ZIF-8となり、ベンゼン分子が6員環開口部を通過するときの活性錯合体において、ZIF-8が最も運動の自由度を失うことがわかった。 以上の結果は、ZIF-8とベンゼン分子との特異的な分子間相互作用の存在を示唆するものである。この点について、赤外分光スペクトルを測定したところ、ベンゼン分子の吸着によってイミダゾール環とベンゼンのC-H伸縮モードに1-2 cm-1の低波数シフトが観測された。特に、2-メチルイミダゾールのメチルプロトンにおいても顕著な低波数シフトが観測されたことから、ZIF-8において2-メチルイミダゾール環とベンゼン分子との間でC-H/π相互作用が有効に働いていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の核となるZIF-8の吸着速度に対して、架橋配位子の2位の置換基を替えた試料についてその置換基効果を定量的に評価するとともに、架橋配位子とプローブ分子であるベンゼンとのC-H/π相互作用の有効性を検証することができた。これより、ZIF-8およびX-ZIF-8の分子ふるい材料への展開には、架橋配位子の動的揺らぎに基づく「過渡的ゲート機構」に加え、分子拡散の遷移状態における活性錯合体がC-H/π相互作用により安定される寄与も考慮する必要があることがわかった。 さらに、ZIF-8およびX-ZIF-8の新しい分子ふるい材料への展開を視野に入れ、令和3年度はメチルシクロヘキサン/トルエン系のモデル系となるシクロヘキサン/ベンゼン系に対して、ZIF-8の吸着選択性について予備実験を行った。その結果、ZIF-8はベンゼンを吸着するが、シクロヘキサンはほとんど吸着しないことを確認した。これは、ZIF-8がメチルシクロヘキサン/トルエン系の吸着分離材として有望であることを示唆する結果であり、研究計画は概ね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
ベンゼンの飽和吸着量がZIF-8において特異的に増大したことから、ZIF-8とベンゼン分子との特異的な分子間相互作用の存在が示唆された。そこで、令和4年度は吸着in situ X線散乱測定装置(信州大学・既設)およびリバース・モンテカルロ(RMC)シミュレーション法を用いて、ZIF-8およびX-ZIF-8に吸着されたベンゼン分子の分子間構造を明らかにする。 1Hおよび13C固体高分解能NMRスペクトル測定により、ZIF-8やX-ZIF-8とベンゼン分子と分子間相互作用をさらに詳細に検討する。特に1H固体高分解能NMRスペクトルではC-H/π相互作用の存在をより明確に検証することが期待される。また、13C CPMAS NMRスペクトルを測定することにより、ベンゼン吸着がリンカーの運動性に及ぼす影響を議論する。 さらに、シクロヘキサン/ベンゼン系に対して、ZIF-8およびX-ZIF-8の吸着選択性についてより詳細に検討する。 以上より、ZIF-8およびX-ZIF-8で期待される「過渡的ゲート機構」に基づく新しい分子ふるい材料としての可能性について検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入において、ディスカウント等で端数が出たため、わずかな残金が出た。 翌年度の研究助成金のうち物品費として使用し、当該研究計画を遂行する予定である。
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