研究課題/領域番号 |
21K04980
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中野 晴之 九州大学, 理学研究院, 教授 (90251363)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 理論化学 / 溶液内擬縮退系 / 多配置電子状態理論 / 相対論的電子状態理論 / 溶液の積分方程式理論 |
研究実績の概要 |
本研究では、溶液内の擬縮退した複雑な電子状態の記述法としての相対論効果を含む多配置理論と、溶液内や生体内の環境の効果を有効に取り込み、自由エネルギー面を構築する溶液理論・シミュレーションの手法をあわせ開発し、従来の手法では十分に明らかにすることのできない問題に適用することを目的としている。本年度は、参照相互作用点モデルに基づく四成分相対論的電子構造理論RISM-SCF/DHFの開発、MDと3D-RISM理論に基づくRBD-ACE2結合過程の解析、ジフェニルホスホリル-フェニルエチニル-アントラセン誘導体の発光特性に対する置換基および溶媒効果の解析、等の成果を出版するとともに、方法論の開発として、(1)RISM-SCF/DHF法の化学反応への適用性の検証、また、これまでに開発した手法を基に、(2)異なるサイズのcucurbituril (CB) へのリガンド結合における水の役割の解析、等を行った。 (1)では、RISM-SCF法を、化学反応、具体的には水溶液中のヨウ素原子を含むメンシュトキン反応に応用し、手法の適用性を検証した。反応座標に沿ったヘルムホルツ・エネルギー・プロファイルを作成し、エネルギー成分分析に基づいて反応の特徴を議論した結果、化学反応に対しても十分な適用性があることが明らかとなった。(2)では、MDシミュレーションと3D-RISM理論を使用して、ホストとリガンドの結合における水の役割を3種類のホストと6種類のリガンドに対して調査した。小さな配位子では、リガンドが溶媒水を完全に置換し、高い結合親和性を持つが、大きな配位子の場合、リガンドとCBの結合構造と、比較的高い疎水性と低い双極子モーメントといった優れた特性が同様に重要であり、最大の結合親和性向上が保証されないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的の一つである相対論と溶媒効果の両方を取り入れた電子状態理論の開発の一環として、四成分の相対論的分子軌道法であるDirac-Hartree-Fock法を新たにRISM-SCFの枠組みに取り入れたRISM-SCF/DHF法の開発、および、重元素を含む化学反応への適用性を検証をすることができた。また、これまで開発した手法を基にして、溶液内のホスト・ゲスト分子の相互作用、大型π共役系の励起状態を含む電子構造と光物性を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、相対論と溶媒効果の両方を取り入れた電子状態理論の開発、特に、RISM-SCF/DHF法の電子状態理論の部分を電子相関を含む四成分法DFT, MP2や多配置の四成分法MCSCF, GMC-QDPTに発展させるとともに、開発した基礎理論を核置換ポルフィリン類縁体の特異な低励起状態・機能と反応、光水素発生金属触媒の反応等に適用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を検討していた計算機が当初想定した性能に至らなかったこと、および、新型コロナウィルス感染症の影響が残り、参加を予定した学会・研究会の多くがハイブリッド開催となったために旅費の支出が少なくなったことによる。想定した性能の計算機が公開され次第、購入し、計算環境を整備する。また、本年度分の旅費を、次年度の学会発表・連携研究者との研究打合せに活用する。
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