研究課題/領域番号 |
21K04984
|
研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
高屋 智久 富山県立大学, 工学部, 准教授 (70466796)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 誘導ラマン分光 / 近赤外 / 白色光発生 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、可視光に敏感な試料が持つ構造・物性・機能を分子レベルで高感度に、かつ非破壊的に計測するための近赤外分光手法を開発することを目的とする。当該年度は、この目的を達成するための分光装置である、近赤外自発ラマン分光計および近赤外誘導ラマン分光計の立ち上げを目標とした。 まず、波長1064 nmの近赤外パルスレーザーを光源とする自発ラマン分光計を製作した。手始めにいくつかの有機溶媒のラマンスペクトルの取得を試みたが、いずれの試料についてもラマン散乱信号の強度は分光計の検出感度限界未満であった。 次いで、近赤外誘導ラマン分光計のうち、誘導ラマン散乱の発生に必要となる広帯域プローブ光の発生光学系を製作した。波長1064 nmの近赤外パルスレーザー出力(105 mW)をフォトニック結晶ファイバーに導入したところ、赤橙色の光の出射が見られた。この光のスペクトルを計測したところ、波長600~1400 nmにわたって十分な強度を持っていることが確認された。得られた広帯域光から波長1100~1400 nmの部分を切り出して用いた場合、波数300~2250 cm-1の誘導ラマンスペクトルが計測可能となる。この波数範囲は分子の種類・構造をとくに鋭敏に反映する波数500~1600 cm-1の領域全体を含んでおり、本課題の目的を達成するうえで必要かつ十分である。 誘導ラマン散乱の発生にはプローブ光の他にラマンポンプ光とよばれる励起光が必要であるため、レーザー出力の全てをプローブ光発生のみに用いることができない。そこで、フォトニック結晶ファイバーへの入射光強度を下げた場合のプローブ光のスペクトルを調べたところ、入射光を65 mWまで減光しても波数500~1600 cm-1の領域で十分な強度を持っていた。以上により、1台のレーザーを用いてラマンポンプ光とプローブ光の両方を用意できることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
誘導ラマン散乱の発生に必要となる広帯域プローブ光の発生は、本研究課題においてきわめて重要で、かつ困難が予想される要素であった。初年度内に十分な強度と帯域とを併せ持つ広帯域プローブ光が得られたことは大きな進展である。これまでのところ自発ラマン散乱信号の観測には至っていないが、近赤外光を用いて、増強効果のない条件下でラマンスペクトルを得ることはきわめて難しく、本課題の遂行計画に対して大きく遅れをとっているとはいえない。金属微粒子の作製に関しては、文献調査はほぼ完了しているが、実験機器の不足のため実際の調製にまで至っていない。しかしながら、次年度予算で実験機器を導入すれば直ちに調製が実行でき、当初予定に追いつけると予想している。以上を勘案した結果、現在までの進捗状況はおおむね順調であると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
近赤外自発ラマン分光計の製作について、光学素子を可能な限り高効率なものに変更し、自発ラマン散乱光の検出感度を極限まで高める。レーザーの試料への集光、および発生した自発ラマン散乱光の集光に用いるレンズをさらに明るいものに変更する、分光器の回折格子を交換する、などの対策を実行する。近赤外誘導ラマン分光計に関しては、広帯域プローブ光の発生条件をさらに最適化したうえで、ラマンポンプ光とプローブ光を同時に発生させて誘導ラマン分光測光系を構築する。手始めとして、いくつかの有機溶媒を対象に誘導ラマンスペクトルの測定を試みる。以上の装置製作と並行して、球状および円柱状の金属微粒子を調製し、自発ラマン散乱または誘導ラマン散乱の増強効果を調べる。以上を次年度中盤頃までに完了する予定である。 次いで、光化学系IIの試験調製に取り掛かる。次年度後半に光化学系II複合体の単離方法を詳細に検討し、年度内に実際の単離を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
消耗品に関して、当初の見積金額よりも実際の販売金額のほうが低かったため、1,032円が未使用額として残った。当該未使用額を次年度の消耗品費に充てる。
|