研究課題/領域番号 |
21K04984
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
高屋 智久 富山県立大学, 工学部, 准教授 (70466796)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 誘導ラマン散乱 / コヒーレントアンチストークスラマン散乱 / 近赤外 / 金ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、可視光に敏感な試料の構造,物性,および機能を分子レベルで計測するための高感度近赤外ラマン分光計を開発することである。当該年度は近赤外誘導ラマン分光計の完成、および金ナノ粒子の作製と評価の完了を目標とした。 トルエンなどの一般的な有機溶媒に2本の近赤外レーザー光(ラマンポンプ光・プローブ光)を照射し、誘導ラマン散乱によるプローブ光の強度変化をInGaAsアレイ検出器で計測する実験を行ったが、誘導ラマン散乱に由来する強度変化信号は検出されなかった。そこで、同じ情報を有する別の非線形ラマン効果(コヒーレントアンチストークスラマン散乱)を観測することとした。電子冷却型CCD検出器を用いることにより、トルエンによるコヒーレントアンチストークスラマン散乱光が波数700-1600 cm-1の領域で明瞭に観測された。また、他の有機溶媒や、水溶液中の多原子イオンなどによる散乱信号も観測可能であることを確認した。 分光計の計測試験と並行して、金ナノ粒子の作製と評価を行った。既報をもとにロッド状の金ナノ粒子を合成し、可視・金赤外分光計を用いて光吸収特性を調べた。合成反応の最終段階で加える還元剤について、滴下の開始時間が遅い場合には吸収極大波長がおよそ800 nmに現れたのに対し、早い場合には吸収極大波長が長くなった。本研究で用いるレーザーの波長(1064 nm)において強い表面増強効果を有する金ナノ粒子を得るには、還元剤を直ちに滴下するほうがよいと予想される。金ナノ粒子の長軸方向の長さを透過型電子顕微鏡で確認したところ、滴下の開始時間が遅い場合のほうが長かった。滴下の開始時間を早くした場合には粒子の長軸方向の長さが減少したが、長軸方向の端を互いに向かい合わせにして並ぶ集合構造が形成されていた。この集合構造により、光吸収の極大波長が長くなったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定では誘導ラマン散乱によるプローブ光の強度変化をInGaAsアレイ検出器で検出する予定であったが、検出器の熱雑音や、レーザー光による試料の温度上昇に由来する光学効果などのため、誘導ラマン信号をまったく確認できなかった。そこで、同じ情報を有する別の非線形ラマン効果(コヒーレントアンチストークスラマン散乱)を観測することとした。コヒーレントアンチストークスラマン散乱の分光測光系を構築し、検出器を電子冷却型CCD検出器に変更したところ、非線形ラマン信号が明瞭に観測された。 誘導ラマン散乱の観測のために光学系を何度も見直し、最終的に別の非線形ラマン散乱の測光系を構築せざるを得なかったことにより、研究の進捗が大きく遅れることとなった。しかしながら、測光系の構築以外の研究内容については順調に進んでいるため、研究の進捗は全体的に見てやや遅れている、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
金ナノ粒子によるコヒーレントアンチストークスラマン散乱の増強効果を調べる。増強効果が確認されれば、光化学系IIタンパク質複合体をホウレンソウなどから単離し、表面増強ラマンスペクトルを計測して複合体の分子構造を解析する。可視光の照射下・非照射下のラマンスペクトルを計測してその差分をとり、光合成機能において重要と考えられる分子構造情報を抽出する。なお、光化学系IIタンパク質複合体の単離の見込みが立たない場合は、ホウレンソウなどからの搾汁液を直接分析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
分光測光系の完成が遅れたため、測定試料の購入を一部見送った。そのため次年度使用額が発生した。当該額を次年度の消耗品費に充てる。
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