研究課題/領域番号 |
21K04985
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
齋藤 徹 広島市立大学, 情報科学研究科, 講師 (80747494)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 金属酵素 / 量子/古典混合近似分子動力学計算 / 反応自由エネルギー曲面 / 結合親和性 |
研究実績の概要 |
初年度は、量子力学/古典力学混合分子動力学(QM/MM MD)シミュレーションを用いて金属酵素による触媒反応を自由エネルギーレベルで解析する基盤技術を構築した。また、QM/MM MDシミュレーションを用いて、金属酵素ウレアーゼによる尿素加水分解の反応機構を解明した。ウレアーゼはピロリ菌や土壌細菌が産生する金属酵素で、複核ニッケル活性部位が基質である尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する。ピロリ菌や土壌細菌がアンモニアを生成することにより、ヒト体内では胃潰瘍や胃がんが、大気中では微小粒子状物質(PM2.5)汚染が引き起こされるため、競合的阻害剤の設計が求められている。我々は、尿素が単座配位ではなく二座配位で結合し、求核攻撃と次いで起こるAsp363を介したプロトン移動により加水分解反応が進行しうることを示した。研究成果は学術論文誌Journal of Physical Chemistry B誌に掲載され、Supplementary Coverに選出された。また、銅や鉄などの酸化還元活性な金属イオンを活性部位に有する金属酵素の反応機構解明にも取り組み、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼによる一重項酸素生成機構については、日本コンピュータ化学会 2021年秋季年会にて成果発表を行った。また、臭素を導入したグアニンカチオンラジカルカチオンへの一重項酸素による酸化反応に関して、ニューヨーク市立大学のLiuグループと実験と理論による国際共同研究を実施した。研究成果は学術論文誌Journal of Physical Chemistry A誌に掲載された。今後は、より複雑な酵素反応の反応機構や抗がん剤のDNAへの結合過程の解明に展開していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の実施目標としていた、金属酵素反応をQM/MM MDシミュレーションの基づく自由エネルギー曲面から定量的に解析する基盤技術の構築を達成した。金属酵素ウレアーゼによる尿素加水分解反応に適用し、求核攻撃やプロトン移動を伴う酵素反応過程をコンピュータ上で定量的に予測・解析することで、阻害剤設計の指針を得ることができた。また、ニューヨーク市立大学のLiuグループとの国際共同研究を開始した。具体的には、置換基を導入したグアニンラジカルカチオン種と一重項酸素との反応を、実験と高精度量子化学計算を用いて解明し、研究成果を学術論文誌で発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
銅や鉄などの酸化還元活性な金属イオンを活性部位に有する金属酵素が触媒する、より複雑な酵素反応の反応機構解明に取り組む。ウレアーゼについては今年度の研究成果を踏まえ、基質である尿素と競合的阻害剤候補化合物との結合様式、結合親和性の違いを定量的に明らかにする。得られた計算結果に基づき、阻害剤の設計指針を示す。また、抗がん剤のDNAへの結合過程の解明もターゲットとし、より優れた金属含有抗がん剤やプロドラッグ設計のための指針を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため国内外への出張を控え、計算機の購入のみにあてたため。次年度は、国内外で実施予定の学会への参加費、旅費にあてる予定である。
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