研究課題/領域番号 |
21K04992
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
本林 健太 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60609600)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イオン液体 / 電気化学 / in situ観測 / 表面科学 / 表面増強赤外吸収分光法 / 金属電析 / CO2還元 |
研究実績の概要 |
本年度は、表面増強赤外分光法を用いて、CO2還元反応や、高温における金属電析反応について、反応メカニズムにおける溶媒再配置ダイナミクスの寄与の検証について理解を進めた。 昨年行った、高温における溶媒イオンの再配置ダイナミクスの追跡を踏まえて、本年度は、溶質として金属イオン(Co2+)が存在し、電析反応進行条件下での溶媒イオンの電極・金属イオンに対する再配置ダイナミクスの観測を、温度を変えながら行った。その結果、100℃以下のいずれの温度においても、電極に対する溶媒再配置が始まる電位で、Co2+に対する溶媒再配置およびそれに伴う電析反応の開始が観測された。これは、反応に伴う脱溶媒和により生じる過剰な溶媒アニオンが、界面近傍の電荷秩序構造に再配置が制限され、これが許されるようになるのが、電極に対する溶媒イオンの再配置が始まる電位である、ということで説明できる。電極に対する再配置に伴う活性化障壁が高温で低下することとあわせて、高温における金属電析反応の過電圧低下の原因であることがわかった。 また、CO2還元反応進行下における界面のin situ観測でも、反応の開始と電極に対する溶媒イオンの再配置が同じ電位で起こることがわかった。こちらでは、中間体であるCO2の1電子還元体が溶媒カチオンによって安定化されることが効率的な反応に不可欠で、これが溶媒の電極に対する再配置によって反応が進行する原因であると考えられる。 どちらの実験でも、電極近傍・反応種まわりの溶媒イオンの再配置が、相互に関係しながら反応メカニズムに絡むという、我々の提唱するイオン液体中におけるマーカス理論の拡張の基本的なアイデアを、指示する結果が出たと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CO2還元反応において溶媒再配置ダイナミクスと反応の関係が顕に見られたことは、当初の計画を超えた結果と言える。その一方で、昨年順調に進捗していた表面増強THz分光については、今年はあまり進んでいない。その原因の一つは、使用していた電子線描画装置にトラブルが多く、今年度から使用装置を分子科学研究所が所有する共用設備に変更したことにある。これに伴い、条件出しを再度行うなど諸般の事情があり、遅れが生じている。計画を超えた分と下回った分を差し引きして、全体としてはおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、新しい装置にてナノ構造を作製できる目処がたったので、本年度はこちらを基に、表面増強素子の開発と表面増強THz分光法の確立を目指して試作を行う。素子の設計や作製手順についても、これまでの経験をもとに改良していく予定である。 また、本研究では主として、イオン液体中における金属電析における大きな過電圧の理解に当たり、マーカス理論の拡張が必要である、との考えに立っている。一方、金属種によって大きな過電圧が生じる場合と無視できてる程度である場合の両方が報告されている。その原因を調べることで、イオン液体中の溶媒再配置ダイナミクスが電気化学反応に与える影響を、より鮮明に浮き彫りにできることが期待される。これを目指し、Sn電析反応下における界面のin situ観測を行うこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
グローブボックスの不調により、装置の更新が必要となった。消耗品の支出などは他の経費で購入したものを共用するなどして費用を確保したが、事務手続きのトラブルにより、装置購入が翌年に繰越となってしまったため、次年度仕様額が生じることとなった。 次年度使用額の使用計画としては、主に上記のグローブボックス装置の更新(循環装置)となる。
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