本年度はこの研究課題の最終年度として、下記の2つの項目に対する研究を実施し、軌道相関図の表面科学への応用の有用性を検証した。 [1]合金表面の検討 メタンの非酸化的カップリングは、エタンと水素という2つの有用な生成物が得られることから注目を集めている。しかし、低温での低い転化率と高温での炭素析出が問題視されている。本研究では、これらの問題に対する解決策を提示することを目的とした。メタンの最初のC-H結合開裂の反応エンタルピーと、触媒表面上のC1種(CH3とCH)のエネルギー差に基づいて、転化率を可能な限り高く保ちながら炭素析出を抑制するための触媒探索ガイドラインを提供することに成功した。合金がそのための触媒候補とみなされた。これらの要件を同時に満たす材料はほとんどないが、MgPtを含むいくつかの合金が有望であることが示された。共同研究を通して、MgPtの触媒性能に関する検証実験も行った。 [2]金属クラスター表面の検討 本研究では、効率的なアンモニア合成のための金属ナノクラスター触媒を設計するための、計算および情報科学的手法の利用について検討した。触媒活性の尺度を定義することが重要である。多数の可能性から最良の候補を選ぶこと、熱力学的に安定なクラスター触媒構造を特定することを両立させる必要がある。第一原理計算、ベイズ最適化、粒子群最適化を用いて、触媒候補としてTi8ナノクラスターを得た。Ti8上のN2吸着構造はN2分子の実質的な活性化を示し、NH3吸着構造はNH3が脱離しやすいことが示唆された。この研究では、反応物質を強く吸着する表面は生成物も強く吸着するという一般的なトレードオフを破る、いくつかのクラスター触媒候補も明らかになった。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果として軌道相関図を表面反応に応用することの有用性が概念実証されたことが挙げられる。
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