研究課題
生命活動を維持する生体内のタンパク質の中には、酵素のように化学反応を担うものや、視覚を司る網膜タンパク質のように光化学反応によってシグナル伝達等の機能を発現するものがある。このようなタンパク質において、化学反応は「活性部位」といわれる反応サイトで起こり、その反応の仕組みを理解するためには、反応中の活性部位の構造変化を分子レベルで明らかにすることが必須となる。特に、タンパク質中では活性部位の構造は立体的に変化するが、活性部位の3次元構造を正確に観測する方法は極めて限られているのが現状である。本研究では分子の立体構造に鋭敏なラマン光学活性分光法(ROA分光法)の発展させて、タンパク質中の活性部位の立体的構造変化を明らかにすることを目的としてきた。初年度において、バクテリアの光受容性タンパク質の代表格である微生物型ロドプシンや光活性イエロータンパク質を対象として、反応中間体の低温ラマン測定を主に実施した。これら光受容タンパク質は、活性部位に光反応性の色素分子を持っており、この色素の構造変化を通して、イオンポンプ等の機能を発現する。微生物型ロドプシンや光活性イエロータンパク質の反応中間体について質の高いスペクトルデータを得ることができ、これら光受容タンパク質の機能を導く色素(あるいは活性部位)の構造変化を明らかにした。さらに一歩進んで、反応中間体の立体的構造の変化までを明らかにすには、低温下のラマン光学活性測定が必要である。光受容タンパク質の反応中間体の立体構造観測のために、低温ラマン光学活性装置の開発を並行して進めた。
2: おおむね順調に進展している
タンパク質の反応中間体のラマン光学活性(ROA)測定を実現するには、低温下のラマン測定において反応中間体の良好なラマンスペクトルを得ることが前提条件となる。本研究で、微生物型ロドプシン等の光受容タンパク質の反応中間体から強いラマン信号が観測されることを見出してきた。また低温下のROA装置の開発においては、装置開発に必要なハードウェアはそろっており、測定プログラムを製作すれば、低温ROA測定が現実的な段階にある。
反応中間体の構造が不明な光受容性タンパク質は未だ数多くある。そのため微生物型ロドプシンに限らず、他種の光受容性タンパク質の低温ラマン測定を実施する。具体的にはシアノバクテリアの光センサーでとして知られるシアノバクテリオクロムの測定を予定している。また、次年度においては低温下のROA測定装置の製作を完了する。ROA信号は微弱であり、微弱なROA信号の質を上げるためには少なくとも1週間程度の測定時間が必要になると考えている。装置が組みあがれば、低温下での試料の円偏光性のチェックや長時間測定のための試料(および低温装置)の安定性のテストから実施する。
学会参加等の旅費による支出がなかったため、302,927円の余りが生じた。翌年度分の物品購入費として使用する計画である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
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