研究課題/領域番号 |
21K05002
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
五十幡 康弘 豊橋技術科学大学, 情報メディア基盤センター, 准教授 (10728166)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 量子化学計算 / 機械学習 / 電子相関 / 密度汎関数理論 |
研究実績の概要 |
1. 機械学習型電子相関(ML-EC)モデルにおける適用領域の決定 ML-ECモデルは小分子において相関エネルギー密度および相関エネルギーの高精度な再現が確認されているが,より汎化性能の高いモデルの構築が求められていた。本テーマでは,ML-ECモデルの適用領域を決定する方法としてデータの距離に基づくk最近傍法,アンサンブル学習を用いるJagging法を採用し,実空間内のグリッド点ごとに適用領域内に存在するか判定した。どちらの方法でも適用領域が適切に判断され,適用領域外のデータを学習データに追加することで,より汎化性能の高いモデルを構築できた。特にJagging法を採用した場合に良好な結果が得られた。 2. 非経験的な局所領域分割混成汎関数の開発 局所領域分割混成汎関数は,密度汎関数理論(DFT)における比較的新しいクラスの汎関数である。この汎関数は,領域分割混成汎関数における領域分割パラメータを実空間座標に依存した式とする。本テーマでは,スケーリング解析,厳密な交換汎関数の拘束条件に基づいて交換エネルギー密度の勾配展開から局所領域分割混成汎関数を非経験的に導出し,簡単な系に対するパラメータフィッティングと数値検証を行った。 3. スピン反転密度汎関数理論に基づく円錐交差の支配因子の解明 円錐交差における分子構造は平衡構造と大きく異なり,平衡構造と比較して化学的解釈が困難である。本テーマでは,量子化学計算で円錐交差構造を決定する手法としてよく用いられるスピン反転時間依存DFTに対して凍結軌道解析を行い,平衡構造と円錐交差の電子状態を比較した。その結果,軌道Hessian行列における非対角項が円錐交差ではほぼ0となり,これによってHOMO-LUMO間の交換積分が0に近くなる傾向を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ML-ECモデルでは,電子密度や運動エネルギー密度などの密度変数を記述子とし,グリッドエネルギー密度解析で与えられる波動関数理論の相関エネルギー密度を目的変数とする。DFT計算で用いられる実空間グリッドを用いて数値積分することで,電子相関エネルギーを高精度かつ低コストに計算できる。ML-ECモデルにてエネルギー密度が密度変数の関数として与えられることは,DFTにおける近似的な交換相関汎関数に着想を得ている。また,ML-ECモデルでは密度変数の1つとしてHartree-Fock交換エネルギー密度を用いており,これはDFTにおける局所混成汎関数と同様の特徴である。このように,ML-ECモデルはDFTと密接な関係を有する。 本研究課題では,これまでのML-ECモデルの開発で明らかとなった課題を解決し,量子化学計算における汎用的な計算手法とすることを目指している。また,DFTに関連した研究も行い,研究成果からML-ECモデルの改善や新たな機械学習モデルの提案を目指すこととした。2021年度の研究実績より,本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ML-ECモデルにおける課題の一つとして,分子間相互作用の取り扱いが挙げられる。この問題は,密度変数と相関エネルギー密度の関係を学習することで非局所電子相関の再現が困難であるためと考えられる。分子力場における分散力の項を加え,パラメータフィッティングを行うことが一つの解決策である。本研究課題では,DFTにおける分散力補正に着想を得たアプローチを考えている。特に,分散力係数を電子密度から計算する局所応答分散力法に注目している。ML-ECモデルを周期表のあらゆる元素を含む分子に適用可能とするためには,相対論効果を考慮した相関エネルギー密度の計算やモデルの構築が必要であり,この点も今後の課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は,当初の計画通り直接経費にて計算機(サーバ)1ノードを購入した。追加の計算機購入や国際会議での成果発表を行うためにまとまった金額が必要であり,次年度使用額が生じている。
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