低炭素社会の実現を背景に実用化が期待されている有機光電変換素子の開発において、三重項励起子の有効利用(三重項ハーベスト)が素子高性能化への鍵として注目されている。しかし、動作中の有機電子デバイスにおいて(オペランド)、三重項ハーベストを確かめ、その反応機構を調べる有効な計測手段は確立されていない。そこで本研究では、ゼロ磁場における電子スピン共鳴法と発光・電流測定法を融合させることで、三重項ハーベストをオペランド観測する新しいスピン計測法を開発する。また、三重項ハーベストの支配因子である三重項励起子や電荷キャリアの衝突対の挙動を解明することで、その制御法の創出を目指す。 本年度は、昨年度確立したロ磁場付近の光検出磁気共鳴(ODMR)の測定を、ルブレンの三斜晶粉末に展開した。蛍光に対する磁場効果測定と密度行列を用いた理論計算による解析も合わせて実施した結果、シングレットフィッションの反応中間体である三重項励起子対は、結晶のb軸方向に対して一次元的に拡散していることを明らかになった。また、ルブレンの三斜晶粉末におけるシングレットフィッションでは、交換相互作用の大きさが異なる近距離対と長距離対が存在することがわかった。昨年度実施したテトラセン多結晶粉末のシングレットフィッションでは、長距離対のみで理解することが可能であり、ルブレン三斜晶粉末の系と異なっている。テトラセン多結晶粉末における長距離対の存在は、一重項励起子の非局在化の効果に起因すると考えられる。非局在化した一重項励起子から生じた三重項励起子対は、複数の分子にわたって分布することができ、長距離対を形成する。
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