研究実績の概要 |
CuドープZnSナノ結晶のフォトクロミズムの課題は、着色が有機フォトクロミック分子と比べて弱いことである。これは、粒子間のホッピングの前に電荷再結合する成分があること、また着色の起源であるZnSの価電子帯からCu2+への遷移のモル吸収係数が有機分子のものと比べて小さいことが挙げられる。よって、電荷分離を効率的に起こし、生成する電荷分離種の可視領域の振動子強度をより高めるための材料設計を基に研究を行った。 2022年度(2年目)は、ナノ結晶をZnSからZnO, Ag2Sなどの化合物半導体へと拡張し、それらのフォトクロミック特性や光励誘起電荷分離過程を明らかにした。得られた知見の概要を示す。 ① メルカプトプロピオン酸でキャップしたZnOナノ結晶粉末が紫外光照射により近赤外領域全体に吸収を生じ、照射後元に戻るフォトクロミズムを示すことを明らかにした。ZnOナノ結晶のフォトクロミック反応はこれまでにも知られていた一方、湿潤空気下でもフォトクロミック反応を示す例はこれまでになく、ZnOナノ結晶の新しい機能材料の可能性を見出した(Photochem. Photobiol. Sci.2022, 21, 1781-1791.)。
② 近赤外領域まで吸収帯を有し、極めて低毒性のAg2Sナノ結晶に可視光応答性色素であるペリレンビスイミドを配位させた複合ナノ材料を合成し、その光誘起電荷分離挙動を明らかにした。これまでナノ結晶の電荷分離を形成するためには紫外光や可視光を用いる必要があった一方、本材料では720 nmの近赤外光で励起しても電荷分離に由来するペリレンビスイミドのラジカルアニオンのシグナルが瞬時に生成した。Ag2Sナノ結晶高励起状態、または量子サイズ効果が強く表れた小さなナノ結晶からペリレンビスイミドの最低空軌道に高速な電子移動が起きていることが示唆された(ECS J. Solid State Sci. Technol.2022, 11, 101001.)。
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