CuドープZnSナノ結晶のフォトクロミズムの課題は、着色が有機フォトクロミック分子と比べて弱いことである。これは、粒子間のホッピングの前に電荷再結合する成分があること、また着色の起源であるZnSの価電子帯からCu2+への遷移のモル吸収係数が有機分子のものと比べて小さいことが挙げられる。よって、電荷分離を効率的に起こし、生成する電荷分離種の可視領域の振動子強度をより高めるための材料設計を基に研究を行った。2023年度(3年目)は、ナノ結晶をZnSからZnOなどの化合物半導体へと拡張し、それらのフォトクロミック特性や光励誘起電荷分離過程を明らかにした。また、有機溶媒に可溶なCuドープZnSナノ結晶の合成に成功した。得られた知見の概要を示す。 1) アルキル鎖部位の分子構造の異なるホスホン酸で配位されたZnOナノ結晶を種々合成し、それらの光応答過程を過渡吸収分光によって明らかにした。電子状態に影響を与えないとされていたアルキル鎖部位の違いでも励起状態ダイナミクスが明確に異なっており、励起電子のトラップ過程が異なることを明らかにした。 2) オレイルアミンなどの長鎖アルキル基を有する配位子を用いて、有機溶媒に可溶なCuドープZnSナノ結晶の合成に成功した。それらは紫外光を当てると薄黄色から濃い茶色に変化し、その着色変化が可逆的なフォトクロミック反応であることを見出した。
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