本研究はハイドレートメルト(HM)での電位拡張機構の実証のために,電気化学的減衰全反射遠紫外分光法(EC-ATR-FUV)を用いて電圧印加中でのHMのような高濃度塩水溶液のFUVスペクトルを測定し,その中の水の電子状態の変化を観測し,電気化学的安定性のような物性向上機構を解明することが目的である。 令和5年度は令和4年度に引き続きLi塩,Na塩の高濃度溶液での溶液構造を近赤外・遠紫外スペクトル両方で様々な塩の組合せの濃度依存性を測定した。電解液の溶液状態として,塩濃度に依存して水の水素が別の水およびアニオンと水素結合する割合が変わることや,Na塩でもアニオンの組合せの選択によって,LiHM特有の水素結合フリー状態が出現することをみいたした。一方,遠紫外スペクトルでは,水の酸素の非共有電子対にアルカリ金属イオンが配位したときの水の電子エネルギー変化がスペクトルに現れることを示すことができた。この結果を通して,近赤外と遠紫外が相補的情報を持つことを実証した。 また,令和4年度中に作成したEC-ATR-FUVを用いてHMのFUV測定を行った。しかし,当初計画したスリット状電極を用いた測定では,電圧印加によるスペクトルの変化は観測されなかった。原因としてスリット電極では電圧印加によって大きく変化する電気二重層の測定範囲が小さいことが考えられた。この問題の解決に,立教大学の田邊准教授の協力により,表面に均一な薄膜を蒸着したEC-ATR-FUVでの測定を行ったところ,電圧印がによるものと思われるスペクトル変化が観測された。 以上の結果は国内では分析化学会・分子科学会・日本分光学会を中心に学会発表を行った。また本研究の成果をSciXでの招待講演において発表することができた。また結果の一部は,論文誌としては,Chem. Soc. Rev.において令和3年に発表した論文と関連付けて発表した。
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