研究課題/領域番号 |
21K05014
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
田丸 俊一 崇城大学, 工学部, 教授 (10454951)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超分子化学 / 多糖 / らせん構造 / 多価効果 / カーボンナノチューブ / ムコ多糖 |
研究実績の概要 |
前年度までに、らせん性多糖である抗生物質導入カードラン(VGC)が、側鎖への導入による抗生物質の集積・局所濃度の増加に伴う多価効果の発現によって抗菌活性を増強することを示唆する研究成果を得ており、さらにカードランの製膜性を利用してVGC薄膜を調製することで、材料展開への可能性を明らかにしてきた。本年度はVGCが示す多価効果の発現について、三重らせん形成能を定量的に評価する方法を確立した上で、詳細に検討し、VGCの水溶性がカードラン主鎖の鎖長に関係することを明らかにした。さらに、3重らせん形成による多価効果発現において、VGC上の抗生物質には最適な導入率が存在し、導入率を高めすぎると3重らせん形成能の低下に伴って抗菌活性が低下する傾向が確認された。以上に加え、本年度は酵母由来のβグルカン類の可溶化剤としての可能性について検討し、カーボンナノチューブの単分子的可溶化への有効性を明らかにした。 さらに、前年度までに開発してきた中心骨格にテトラチオフェン(Th4)を持つボラ型界面活性剤の水溶性がアニオン性多糖類との錯形成に伴って変化することを利用して、ムコ多糖類の識別系の構築を行った。特定条件下で各種アニオン性多糖水溶液にTh4誘導体を添加すると、それぞれ異なる濃度領域で錯形成に伴う沈澱形成が進行した。その変化の序列はアニオン性多糖上のアニオン電荷の数と一致したことから、本系はアニオン性多糖上のアニオン電荷の数に基づいてアニオン性多糖を識別可能であることが確認された。さらに、血液凝固抑制剤(ヘパリン:Hep)とここに混入する毒性物質である偽ヘパリン(過硫酸化コンドロイチン硫酸(OSCS))に対する応答性の大きな差に注目し、プレートリーダーを活用してHep/OSCS混合系に対する応答性の評価を行った結果、20%未満のOSCS混入HepのOSCS含有量を定量可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに明らかにしてきた、抗生物質導入カードラン(VGC)の抗菌活性発現について、今年度はその発現に多価効果が関与しており、3重らせん形成が多価効果発現に寄与している事を明らかにした。また、上記に加えて抗菌活性をより高めるためには、VGCの水溶性や抗生物質の導入率を調整することが重要であることを見出した。その上で、VGCを含む抗菌性多糖薄膜の調製に成功したことで、本系の材料化への可能性を見出すに至っている。また、酵母由来の天然βグルカン類の分離法を確立し、これをカーボンナノチューブ(CNT)の単分子的可溶化剤としての有用性を見出した。βグルカンは免疫賦活などの生理活性を持つことが知られ、単分子的CNTはその発熱・発光特性などから、薬物送達系やバイオイメージングなどへの応用が期待されている。よって、本成果は天然多糖とCNTの複合化による新たなる機能材料の開発に繋がる重要な知見である。 中心骨格にテトラチオフェン(Th4)を持つボラ型界面活性剤について、昨年度までに水性ゲル化剤としての有用性を報告して来た。これに加えて、本年度は血液凝固抑制剤(ヘパリン)中に混入する偽ヘパリン(過硫酸化コンドロイチン硫酸)の検出系への応用の可能性を示すことに成功した。偽ヘパリンの混入は重篤なアレルギー反応を誘発するため、ヘパリン中の偽ヘパリンの検出は大変重要であるが、両分子の構造的類似性から、簡便な手法での検出法はいまだその開発が待たれる状態である。本研究成果は、混入偽ヘパリンを簡便にかつ高効率に検出出来る手法であり、本系の更なる最適化を経ることで、社会貢献に資すると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
抗生物質導入カードランについては、三重らせん構造形成の重要性が示唆されているが、ここには三重らせん構造形成に伴う側鎖上の抗生物質の集積に加えて、三重らせん構造そのものが持つ剛直性が寄与していると考えられる。そこで、三重らせん形成能が異なるさまざまな抗生物質導入カードランをさらに合成し、抗菌活性発現に対する分子構造の重要性を明らかにし、多価効果による抗菌活性増強に対する有効な開発戦略を提案する。 今年度も引き続きシグナル増幅型の高感度検出系の開発を目指して、カードランの側鎖に多価効果に基づくシグナル増強ユニットと標的物質に対する受容体構造を導入したカードラン誘導体の合成を進めた。未だ十分量の目標化合物が得られておらず、性能に関する検討が進んでいないが、十分に合成が進み次第、機能評価に移行する。 さらに、異なる側鎖を導入したカードラン(またはβ-1,3-グルカン類)からなるヘテロな三重らせん形成について、その方法論を確立する。ヘテロ三重らせん構造を意図して調製することができれば、これまで検討してきた多価効果などの機能発現機構のより詳細な解明が進むとともに、複数種類の機能性材料を効果的にかつ簡便に集積できることが可能となるため、複合タンパク質などで発現している連続的な機能伝搬による、高度な機能発現などの実現が期待できる。 酵母由来βグルカン類によるカーボンナノチューブの単分子的可溶化については、未だ十分な可溶化効率が得られていない。そこで、あらかじめ調製した界面活性剤/カーボンナノチューブ複合体からβグルカンへと受け渡しを検討することで、より高い可溶化効率の達成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画通り支出を行ったが、3899円という全体額からすると大変少額の残金が生じた。残金が確認できた段階で、この額を本研究に有意に進めるために支出する適切な対象がなかったため、翌年度へ繰り越すこととした。
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