研究実績の概要 |
前年度に引き続き、スピン密度の大きいアモルファス固体の調製を検討した。(1)ではアリール基上に安定ラジカル部位であるTEMPOL(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)部位を置換した新規分子は、前年度までの合成収率が低い(5%以下)という欠点が改善され、その3倍以上の収率での合成に成功した。また(2)では、従来のアモルファス固体とラジカル分子からなる結晶を固相摩砕して得られたTEMPOLが最大5%含まれた混合アモルファスで、前年度までに弱いながらもスピン間に磁気的相互作用がある可能性が示唆されていたが、その後再現性が低いことがわかったため、実験条件を変えて再現性向上を図った。しかしながら、この段階で実験を担当する学生が自己都合により研究を離れるという災難に見舞われたため、残念ながらこれ以上研究を進めることができななかった。 一方、トリアリールフェノキシル-2量体系のアモルファス固体にフェノキシルの前駆体であるフェノールを混合させる実験を行ったところ、物質量比1:5という高い比率でもフェノールがアモルファス固体に取り込まれ、かつアモルファス状態を維持できることを見出した。種々の分析を行った結果、生成したアモルファス固体中では、元々のアモルファス固体に存在したフェノキシルと2量体が物質量比2:98で含まれるクラスターの構造は保持され、そのクラスター間にフェノールが取り込まれていることがわかった。この現象は、他のアリール基をもつ類縁体でも観測されたことから、この系に一般的な現象と推測される。フェノールがTEMPOLと比べて格段に取り込まれやすい原因は、フェノールが元々のアモルファス固体を形成する分子と分子構造が類似していることに起因すると考えられることから、本実験によりゲスト分子の選択性に関する指針が得られた。
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