研究課題/領域番号 |
21K05027
|
研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
村田 理尚 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (30447932)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ナノカーボン / ドミノクロスカップリング / 短段階合成 / 固体発光材料 / 近赤外発光材料 / 量子化学計算 |
研究実績の概要 |
2021年度の研究においては,当研究グループで見出しているテトラセンとベンゼンとのドミノSchollクロスカップリングに関して,反応の条件を最適化し,機構解明につながるモデル実験を進めた。これにより,ラジカルカチオン種のスピン密度の大きさから,位置選択性を合理的に説明できることが明らかとなった。Scholl反応はC-H結合同士を酸化的に連結する手法として価値がきわめて高く,分子間で多数のC-C結合をワンポットで形成するドミノSchollクロスカップリングは新たな共役化合物の短段階合成に貢献するものである。そのため反応機構に関する指針を明らかにすることに意義がある。また,反応機構に関する理解をさらに深めることを目的に,テトラセンとビフェニルとのドミノSchollクロスカップリングを調べた。その結果,テトラセンに対して6分子のビフェニルがワンポットで連結され,その構造を単結晶X線構造解析により明らかにした。この反応の位置選択性に関してもDFT計算を用いて考察し,ラジカルカチオン中間体のスピン密度の大きさから反応を説明できることが確認された。得られた生成物は湾曲した共役系をもち,固体状態においても強く発光する性質をもつことがわかり,固体発光分子の開発につながる有用な知見が得られた。さらに,テトラセン以外の基質に関してもドミノSchollクロスカップリングが進行するかを明らかにするため,アントラセンやペンタセン,ペリレンなどについて検討を進めた。その結果,予備的なデータではあるが,それぞれ反応が進行して予想外の生成物を与えることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は電子受容性の高い共役化合物およびn型有機材料を短段階合成に基づいて開発することを大きな目標の一つにしている。そのためにはC-H/C-Hクロスカップリングにより,複数のC-C結合を一段階で分子間において形成するドミノScholl反応は極めて強力な手法となる。この反応の機構を理解し,反応経路を予測できるようにすることが重要である。また,基質適用範囲が狭いのも課題として挙げられる。2021年度に実施した研究においては,ドミノSchollクロスカップリングをDFT計算により解釈し,ラジカルカチオン中間体のスピン密度の大きさから反応経路を予測できる可能性を示した。この反応の基質適用範囲についても実験的な検討を進め,テトラセン以外の分子に対してもドミノSchollクロスカップリング/環化が進行することを見出した。今後,固体発光性分子の開発へと研究を進めるうえで,2021年度は有用な知見を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究では,ドミノSchollクロスカップリングについて引き続き検討を進め,テトラセン以外の基質に対する反応を詳細に明らかにする。また,得られる独自の共役化合物を用いて,電子求引基や電子供与基を導入することにより,凝集状態における蛍光波長の調整を試みる。これにより剛直な湾曲共役系を用いた固体エキシマ―型発光特性を利用したRGB発光を実現する。さらに,固体発光性分子を二量体および三量体に連結していき,それが凝集状態における構造や蛍光特性に与える効果を明らかにし,共役ポリマーの合成に展開する。さらにチオフェン環などを含む共役化合物の合成を検討し,剛直キラル共役系の構築に着手する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度はドミノSchollクロスカップリングの機構解明や基質適用性などを詳細に検討する必要があり,比較的小さいスケールでの実験が増えたため,当初の計画により有機薬品の購入にかかる予算が少なくなったことが理由として挙げられる。2022年度の有機薬品費として使用する計画である。
|