研究課題/領域番号 |
21K05027
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
村田 理尚 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (30447932)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エキシマ― / 蛍光 / π-π相互作用 / 湾曲π電子系 / Scholl反応 |
研究実績の概要 |
2022年度の研究においては,当研究グループで見出しているテトラセンとベンゼンとのドミノSchollクロスカップリングに関して,得られた剛直に湾曲したπ電子系の発光特性について検討し,有機基の違いが固体中での発光特性に顕著な効果を及ぼすことを明らかにした。すなわち,二つのブチル基を連結した湾曲π共役分子を,分子間ドミノScholl反応を駆使する短段階ルートにより合成した。得られた化合物はトルエン溶液中において青色蛍光 (λem = 442 nm, ΦF = 0.49) を示し,π共役系の構造が同一であることを反映して,フェニル基をもつ化合物 (λem = 431 nm, ΦF = 0.60) と溶液中では類似の発光特性を示すことがわかった。一方,粉末状態において比較した結果,ブチル基を連結した化合物は緑色発光 (λem = 469 nm, ΦF = 0.54) を示すのに対して,フェニル基をもつ化合物は発光波長が大きく長波長側にシフトし,黄色発光 (λem = 511 nm, ΦF = 0.16) を示すことがわかった。この長波長シフト (3055 cm-1) は顕著に大きく,ブチル基を連結した分子が湾曲π共役系の凹面同士における二量体を形成し,エキシマ―型発光を示した結果と考えられる。フェニル基をもつ分子は固体中において,二つのフェニル基が分子間C-H-π相互作用に寄与する結果,主としてモノマー由来に帰属される固体蛍光特性を示したものと考えられる。さらに,ドミノSchollクロスカップリングをペンタセンにも適用できることを明らかにし,負の曲率をもつ湾曲π電子系がワンポットで生成することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
芳香族C-H結合を酸化的に連続してカップリングさせる「分子間ドミノScholl反応」を独自に見出し,それを利用して従来法では合成が難しい炭素π共役化合物を合成した。基質として利用できる化合物はテトラセンに限定されず,ペンタセンおよびアントラセンにもそれぞれ適用できることを概ね明らかにすることができた。ペンタセンの分子間ドミノScholl反応では,マイナスの曲率に湾曲したπ電子系がワンポットで得られた。この結果は当初予期できなかった結果である。現在,その特異な分子構造に起因した特徴を継続して探索している。一方,アントラセンの分子間ドミノScholl反応では,ルビセン誘導体がワンポットで得られることを明らかにした。このように,アントラセン,テトラセン,ペンタセンに分子間ドミノScholl反応が適用できることを示し,それぞれ異なる反応が進行することを明らかにした。反応条件の最適化およびX線結晶構造解析などさらに必要なデータもあるが,本研究を通じて「分子間ドミノScholl反応」の意義を高めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
「分子間ドミノScholl反応」を利用してアセン類の直接的構造変換が可能であることを実証してきた。ペンタセンの構造変換においては,マイナスの曲率をもつカーボンπネットワークが簡便に合成できることがわかり,新たなホスト分子としての機能開拓へと研究を推進していく方策である。テトラセンの構造修飾においては,剛直な固体発光分子が得られるのが特徴であり,今後はD-A型分子および高分子へと展開し,固体状態における発光特性の制御を行う。また,アントラセンの場合にはルビセンがワンポットで得られたことから,電子受容性π共役高分子の合成へと展開したい。さらに,アセンに制限せず,典型元素を含んだπ共役化合物へ適用範囲を広げ,従来法では合成できない多彩なπネットワークの構築へと研究を深め,熱電変換材料などとしての応用につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は小スケールの反応条件の最適化を多く行ったため,当初計画より物品費が少なくなった。また,コロナ禍の影響により旅費も想定より少額となった。2023年度の有機薬品の購入ならびに,研究成果の学会発表の旅費などに充当する計画である。
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