外部からの刺激により物性が可逆的に変化する現象として,結晶や粉末をすりつぶす等の機械的刺激により蛍光色が変化するメカノクロミック蛍光の研究が進められている。これまでに報告されたメカノクロミック蛍光分子を見ると,多くの研究例が機械的刺激により結晶相をアモルファス相に変化させ,固体中における分子配列を変えることにより発光色をスイッチさせている。有機化合物のアモルファス相におけるメカノクロミック蛍光分子の研究は十分に進んでいないのが現状である。 2023年度の本研究においては,剛直に湾曲したπ共役系をもつ化合物にフェニル基を一つ導入すると,特異なメカノクロミック蛍光特性を示すことを見出した。この結果は,当初の目標設定には含まれていなかった発見である。当研究室で独自に開発しているドミノScholl反応を用いて得られる分子であることも特徴であり,新規性の高い知見を得ることができた。 また,ドミノScholl反応をペンタセンに適用し,ワンポットでサドル型に曲がったπ共役分子を構築できることを明らかにした。ペンタセンの直接的な構造変換は,溶解性や安定性などの点から一般に困難とされるが,直接的に複数のアレーン類を連続して連結・縮合させることが可能であることを示した。一方,アントラセンのドミノScholl反応による分子変換では,ルビセン骨格を含む誘導体がワンポットで生成することを見出した。アントラセンからの一段階での構築法は,もっとも理想的な手法と言えることから,材料科学への展開に有用な知見である。
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