研究課題/領域番号 |
21K05031
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
上遠野 亮 北海道大学, 理学研究院, 助教 (60432142)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多元的キラル空間 / キラル増幅 / テレフタルアミド / マクロサイクル |
研究実績の概要 |
"キラル増幅"の新たな一面を提示する。それは、同一分子内で動的にキラルな構造が連続して多元的に配置された場合、個々の動的キラル構造におけるセンスの優先性が自発的に発現する現象と定義する。結果として、最小単位であるキラル構造はラセミ対であるにもかかわらず、分子内に組み込まれたことで、特定のセンスに対する配座的優先性が発現し、分子全体として、特定のキラル構造が多数の配座異性体の中で支配的に存在するようになるかもしれない。 上記の実現を目的として、二系統の分子群を扱っている。一つは、(I)アキラルな構成要素(アキラル平面・棒)を積層し、上下に架橋した構造を有する分子群である。もう一つは、(II)時計回り・反時計回りにねじれることで動的にキラルな構造をとることができるマクロサイクルを同一分子内で複数縮合した構造を有する分子群である。 (I)では、アキラルな棒二つとアキラルな平面を一つもしくは二つ用いて、三層および四層構造を構築した。特に、四層以上の積層構造では、最上段または最下段の間に動的にキラルな空間が生じている。この部分に、配座的相互変換を示唆すること、そこで一方のセンスを優先することを分光学的に証明することが、挑戦的な課題となるが、これを実現し報告した。また、合成的観点では、四層以上の積層・架橋構造には、三層までには生じない異性体が存在する。これについては、本系で選択的合成を実現したことをあわせて報告した。 (II)では、ヘキサキスフェニルエチニルベンゼンを足場として、あるマクロサイクルを三倍化した分子を設計した。ここで用いたマクロサイクルは、ねじれることでキラルな構造をとることができる。単独で存在したときに誘起できたねじれ方向についての優先性を三倍化した分子内ではどのように摂動を受けるのかを定量的に考察する手法を提案し、実際に試みた結果を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表者がこれまでに蓄積してきた知見に基づいて計画・実施されており、ある程度は予想通りに合成を進めてくることができた。一部、不本意な達成度にとどまる反応を含み、更なる改善が必要となる。申請段階で標的として想定していた化合物群、すべてについて単離することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の中で、合成的に最大の難易度をもつ標的化合物について、合成を完了し、これまでに得られた知見をもとに総括することができる。また、本系では取り扱わなかった絶対配置が安定な多元的キラル構造にも着手できるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
効率的に合成が進行しているため。ただし、合成検討を引き続き行う必要があり、予算を過不足なく使用する。
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