研究実績の概要 |
"キラル増幅"の新たな一面を提示した。それは、「動的にキラルな空間を連続して多元的に配置することで一つの分子を構築した場合、個々の空間における配座優先性が、周囲のそれと相互影響することで、自発的に増幅する現象」と定義した。この相互影響は、二通り想定される(協調と競争)。いずれも、分子がとりうる複数配座の中から特定の一つの配座を支配的にとるよう導く。"キラル増幅"現象は、これらのうち協調によってもたらされる結果とみなすことができる。 前年度までに、動的な8の字キラリティを有するマクロサイクルを一つの縮合点周りに回転的に配置した多量体(N=3)において、"キラル増幅"の実現と協同性についての定量的考察法を提案した。最終年度では、動的にキラルなマクロサイクルを環状に配列した多元的動的キラル空間「マクロサイクルのマクロサイクル」の創出にも挑戦し、実現した(N=3,5,6)。これらは、室温では、複数配座の混合物として存在することが示唆されたが、低温で同一センスのねじれが分子全体にわたって誘起されたこと(無限連続)を報告した(N=5,6)。この配座制御は、各マクロサイクルが縮環を通じて環状に強制された中で発揮されたと考えられる。他、単位数や配置が異なる一連の縮環多量体(N=2-6)を合成し、光学活性を分子構造の違いに基づいて考察した。結果、各マクロサイクル間の相対的な回転角に応じて分子旋光度が変化することを見出した(投稿中)。 [期間全体を通して]積層や縮環を通じて構築された様々な多元的動的キラル空間において、特定のキラル構造が自発的に誘起される現象を実証した:アキラルな平面を重ねて架橋しただけで、分子は自発的にねじれ方向を決める。動的にキラルなマクロサイクルは、自身が置かれた環境に応じて、周囲と相互影響し、分子は自発的に特定のキラル構造をとる。
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