研究課題/領域番号 |
21K05034
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
村岡 貴子 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (40400775)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 中員環化合物 / 12~13族元素化合物 / 合成 / 反応性 / 合成戦略構築 |
研究実績の概要 |
本研究では,ガリウムを含む10員環化合物の生成過程および得られた10員環化合物の性質を詳細に検討することにより,元素特性を利用した中員環化合物の合成手法を確立することを目的としている。 ジルコナシクロペンタジエンと13~15族ハロゲン化物との反応では,5員環化合物を与えることが知られているが,我々はトリクロロガランを用いた同反応系で,予想に反して10員環化合物が得られることを見出した。10員環化合物を与える反応が進行する要因について知見を得るために,理論計算を実施した。その結果,10員環化合物は,5員環化合物が二量化して生成することが分かった。この二量化は,ガリウムの電気陰性度が炭素よりも十分に小さく,ガリウムー炭素結合が分極すること,ガリウムはオクテットに満たない電子不足中心で,空のp軌道を介して分子間相互作用をすること,が重要であることが分かった。また理論計算では,ガリウムと同族のホウ素を含む5員環化合物の二量化では10員環化合物を与えないことを見出した。 これらの知見に基づいて,トリクロロガランの代わりに塩化亜鉛を用いてジルコナシクロペンタジエンとの反応を行ったところ,15員環化合物が生成することが分かった。塩化アルミニウムを用いた反応では,10員環化合物は得られず,アルミニウムとジルコニウムを含む錯体が得られた。 ガリウムを含む10員環化合物の性質を明らかにするため,ルイス塩基,求核試薬,遷移金属錯体などとの反応を行ったところ,10員環化合物が5員環や9員環誘導体へ変換されることが分かった。ルイス塩基との反応では,環上の置換基の立体的大きさが異なると,生成物の選択性が異なることが分かった。10員環化合物を加熱したところ,9員環化合物に変換された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トリクロロガランとジルコナシクロペンタジエンとの反応により,10員環化合物が生成することを見出した。13族元素ハロゲン化物として三塩化アルミニウムとの反応を検討したところ,10員環化合物は得られずアルミニウムとジルコニウムを含む錯体が得られた。トリクロロボランおよび三塩化インジウムとの反応では,生成物の単離および同定にはいたっていない。実験条件を再検討する必要がある。 一方,塩化亜鉛との反応では15員環化合物が生成することが分かった。現在,亜鉛を含む15員環化合物の反応性を検討している。得られた15員環化合物に含まれている亜鉛は2配位で直線型の幾何構造を有している。従って、直線型の幾何構造を有する銀錯体や銅錯体を用いてジルコナシクロペンタジエンとの反応を検討する準備を進めている。 ガリウムを含む10員環化合物の反応性の検討は、おおむね順調に進んでいる。ルイス塩基や遷移金属フラグメントとの反応では、分極しているガリウム-炭素結合の切断と再結合が進行して、5員環化合物に変換されることが分かった。ルイス塩基との反応では,環上の置換基の立体的大きさが異なると,生成物の選択性が異なることが分かった。10員環化合物と9員環化合物を比較すると、9員環化合物のほうが熱力学的に安定であることが理論計算により示唆された。実際に、10員環化合物を有機溶媒に溶解して加熱したところ、9員環化合物に変換された。これらの反応性の検討結果から、高周期元素であるガリウムと炭素間のシグマ結合は、切断-再結合が容易に生じることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、ガリウムを含む10員環化合物は、ガリウムー炭素結合の切断-再結合を経て、多様な生成物に変換されることが分かった。この性質についてさらに知見を得るため、分極した結合を有する極性分子との反応を検討する。 10員環化合物とルイス塩基との反応において、10員環の環上炭素の置換基の立体的な大きさの違いにより、反応生成物の選択性が異なることが明らかになっている。この選択性の違いについて、ルイス塩基と10員環化合物との反応の理論計算を実施する。さらに、溶液中での10員環構造の分子間相互作用について知見を得る目的で、遠赤外吸収分光法を用いて、Ga-Cl結合の伸縮振動に関する吸収スペクトルの測定をspring-8で実施する予定である。 亜鉛を含む15員環化合物の性質を明らかにするため,遷移金属錯体,ルイス塩基,13族元素ハロゲン化物などとの反応を検討する。 ジルコナシクロペンタジエンと銀錯体,銅錯体,および二価の14族ハロゲン化物との反応により、5員環化合物が生成するのか、中員環化合物が得られるのか検討し、中員環化合物を与える化合物の元素特性についてさらに知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
残金がわずかであり,手続き不要で翌年度に繰り越せたため,2022年度に使用することにした。
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