研究課題/領域番号 |
21K05036
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
石井 昭彦 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (90193242)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光物性 / ジベンゾバレレン / ヘキサトリエン / ヒドロゲナーゼミミック / オレフィン重合触媒 |
研究実績の概要 |
ジベンゾバレレン(DBB)とヘキサトリエン(HT)が一つの二重結合を共有し、さらに典型元素EによりDBBの二つの橋頭位とHTの両末端が結ばれている化合物(DBB(E2)HTと略記)の合成、光物性、および反応性について、E依存性やHTの両末端1,6-位アリール基の置換基効果を研究した。今年度は、DBB(E2)HTの嵩高さ・堅牢性を機能性遷移金属錯体の配位子へと応用する準備も含め、Eが酸素、硫黄、セレンの化合物について検討を行い、以下のような成果を得た。 (1)DBB(O2)HT:橋頭位に発生させたカルバニオンをモリブデン過酸化物で酸化することで橋頭位ジヒドロキシ体を得、次に、塩基性条件下でヒドロキシ基をHT部のフェニルエチニル基に分子内環化させ目的のDBB(O2)HTを合成することに成功した。 (2)DBB(S2)HT:すでに合成しているDBB(S2)HTはHT部の2,4位がジスルフィド架橋されている(DBB(S2)HT(S2)とする)。この構造的特徴を活かし、鉄カルボニル錯体との反応を検討した。DBB(S2)HT(S2)とFe2(CO)9との反応ではジスルフィド結合部位が反応し、S2Fe2の構造を有する鉄二核カルボニル錯体DBB(S2)HT[S2Fe2(CO)6]が生成し、その構造を単結晶X線構造解析により決定した。この化合物は[Fe-Fe]ヒドロゲナーゼミミックであり、今後、触媒的水素発生について検討する。 一方で、ビスフェノール配位子であるDBB(S2)HT(SCH2ArOH)2を合成したので、今後、4族金属錯体の合成と重合触媒能を検討する。 (3)DBB(Se2)HT:DBBの橋頭位にセレンを導入した場合はHT部の2,4位が一つのセレン原子で架橋された(DBB(Se2)HT(Se)が得られた。今後はこの化合物の光物性および酸化反応について検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)DBB(O2)HTの合成:ジベンゾバレレン(Dbb)の橋頭位に発生させたカルバニオンをモリブデン過酸化物で酸化することで橋頭位ジヒドロキシ体を得た。次に、塩基性条件下でヒドロキシ基をヘキサトリエン(HT)部のフェニルエチニル基に分子内環化させる条件を最適化し、目的のDBB(O2)HTを高収率で合成することに成功した。フェニル基のパラ位にメトキシ基及びジメチルアミノ基を有する誘導体も合成し、置換基の電子供与性が増大するほど酸に対して不安定化することが分かった。 (2)DBB(S2)HTの反応:すでに合成していた、HT部の2,4位がジスルフィド架橋されているDBB(S2)HT(S2)の構造的特徴を活かし、これと鉄カルボニル錯体との反応を検討した結果、DBB(S2)HT(S2)とFe2(CO)9との反応ではジスルフィド結合部位が選択的に反応し、目的とするS2Fe2の構造を有する鉄二核カルボニル錯体DBB(S2)HT[S2Fe2(CO)6]の合成、単離に成功した。その構造は単結晶X線構造解析により決定した。 一方で、DBB(S2)HT(S2)に水素化ホウ素ナトリウムを作用させた後に、臭化ベンジル誘導体(BrCH2ArOH)を反応させることでビスフェノール配位子であるDBB(S2)HT(SCH2ArOH)2を合成することに成功したので、今後、これを配位子とする4族金属錯体の合成を行う。 (3)DBB(Se2)HTの合成:DBBの橋頭位にセレンを導入した場合はHT部の2,4位が一つのセレン原子で架橋された(DBB(Se2)HT(Se)が得られた。今後はこの化合物の光物性および酸化反応について検討する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)DBB(O2)HT:ジベンゾバレレン(DBB)の橋頭位ジヒドロキシ体の合成法とそのヘキサトリエン(HT)部のフェニルエチニル基への分子内環化の条件をほぼ確立した。フェニル基のパラ位にメトキシ基及びジメチルアミノ基を有する誘導体も合成し、置換基の電子供与性が増大するほど酸に対して不安定化することが分かったため、電子求引性置換基の導入や、フェニル基以外の置換基を有するDBB(O2)HTを合成し、それらの光物性のデータを収集する。 (2)DBB(S2)HT:DBB(S2)HT(S2)とFe2(CO)9との反応により合成した鉄二核カルボニル錯体DBB(S2)HT[S2Fe2(CO)6]の[Fe-Fe]ヒドロゲナーゼミミックとして触媒的水素発生能について検討する。また、DBB(S2)HT(S2)のジスルフィド部位を酸化することでDBB(S2)HT(S(O)S)およびDBB(S2)HT(S(O)S(O))を合成し、さらに鉄カルボニル錯体との反応を行い、新規な[Fe-Fe]ヒドロゲナーゼミミックを合成する。得られた鉄-硫黄錯体の硫黄上の酸化状態による性質の違いを明らかにする。 一方で、合成したビスフェノール配位子DBB(S2)HT(SCH2ArOH)2を用いて4族金属錯体を合成し、α-オレフィン類の重合の触媒としてどのように機能するかを調査する。また、配位子としての最適化としてAr部の置換基についても検討を行う。 (3)DBB(Se2)HT:DBBの橋頭位にセレンが導入されHT部の2,4位が一つのセレン原子で架橋された(DBB(Se2)HT(Se)の光物性を詳細に検討するほか、酸化による光物性の変化を調査する。 また、橋頭位へのテルル導入を検討する。
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