研究課題/領域番号 |
21K05038
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
信末 俊平 京都大学, エネルギー理工学研究所, 助教 (80774661)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | グラフェンナノリボン / ナノ炭素材料 / π共役分子 / 機能性材料 / エッジ構造 |
研究実績の概要 |
本研究課題は第一に、両端を非対称的に修飾したグラフェンナノリボン(GNR)を合成する手法を確立させ、その方法を用いて様々な置換基を有するGNRを合成することである。その上で、得られたGNRを機能性材料として応用することを目的に、強誘電性を始めとする物理的な測定を行う。。 GNRの合成法としては、主に超高真空下での金属表面上での合成が主になされてきたが、サイエンスとしては興味深くても量が得られないという致命的な問題がある。その点、溶液合成によるGNRの創出はバルクとして生成物が得られ、さらにその幅や部分構造を緻密に制御できる大きな利点がある。材料化学としてGNRの化学を発展させるためには、溶液合成を中心とした機能開発が求められる。 GNRの合成としては、モノマー分子をポリマー化反応によって高分子前駆体とし、酸化剤を用いた脱水素環化反応によりGNRを得る方法が一般的に用いられる。しかし、酸化的な脱水素反応では、反応の過程でしばしば構造転移を起こすことが問題となっている。特に我々が提唱する非対称修飾を見据えた独自のZ型分子を用いた場合、高分子前駆体の分子骨格がフレキシブルであるため、酸化剤による一般的な脱水素反応では期待したGNRが得られなかった。そこで、パラジウム触媒を用いた炭素-炭素結合形成反応と酸化的な脱水素化反応を組み合わせることにより、目的とする非対称構造をもつGNRの合成を達成した。 この手法と新たな手法を用い、電子的に非対称な置換基を有する種々のGNRの合成に成功した。その物性測定から、非対称性に起因する分極の大きさ、電子状態と物性に関する知見が得られた。さらには研究提案の最終目的として掲げている、新たな機構に基づく強誘電性が発現することを予備的な測定ながら確認することができた。今後、その機構に関するさらなる証拠を集め、新たな学理の構築を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に確立した非対称構造グラフェンナノリボン(GNR)の合成手法を用いて、GNR骨格の片側のみに極性置換基を導入したPolar GNR、かさ高い置換基を導入し立体障害によりGNR骨格をねじれさせてTwisted GNRの合成に成功した。一般的な脱水素反応のみでは骨格転移により設計したGNR骨格が得られない問題を解決するための、二段階の結合形成反応は上記の合成にも有効であった。 さらに、合成したGNRを液晶分子中に分散させ、サンドイッチ型のセルに封入することにより強誘電性に関する電気測定を行った。その結果、強誘電性に起因すると考えられるピークが観測された。比較対象となる他の試料を用いて測定を行ったところ、強誘電性は観測されなかったため、GNRの構造的特徴に起因すると推測される。今後、この機能発現を明らかにすることを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に続き、申請当時に目指した機能を確認する測定と、それがどのような原理で発現しているのかを明らかにするために、GNRの合成とその物性測定を追求する。 「進捗状況」で述べた通り、すでに合成したGNRを用いた強誘電性の観測に成功している。今後さらに追加の測定を行うことにより、提案の内容が正しいことを示すことにより、新たな学理を示すことを目指す。そして一連の研究を通じ、これまで構造学的な知見を得ることが主な研究対象であったGNR化学を、次世代機能性有機材料として応用することを大きな目的とする。
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