研究実績の概要 |
ナフタレンの構造異性体であるアズレンは分極したπ電子系に由来する特徴的な性質を持ち、特に1,1'-ビアズレンは比較的安定なカチオンラジカルを生成するという性質が知られている。以前に,我々は、1,1’-ビアズレン誘導体のカチオンラジカルが共鳴構造の寄与により比較的安定である点に着目し、1,1’-ビアズレンとイソベンゾチオフェンから構成されるAIBTh (bisazulenoisobenzothiophene)のカチオンラジカルを室温、空気下で安定な固体として単離することに成功した。 本研究では,ヘリセンのカチオンラジカルのさらなる長期安定化を目指して,反応性が高いアズレンの3,3’位に立体保護基となるアセチル基、フェニルチオ基を導入し、比較検討した。合成した化合物は、1,1’-ビアズレンとナフタレンからなるANap-H, Ac, SPh(OMe), SPh(tBu) (bisazulenonaphthalene)の4種類である。これらの化合物は、光学活性HPLCを用いて右巻き(P体)と左巻き(M体)のエナンチオマーに光学分割し、室温条件では十分に安定なキラリティを示した。また、電気化学測定では、いずれの化合物においても可逆な一電子酸化波が得られた。電気化学的および化学的酸化により、カチオンラジカルが生成することがESRスペクトルや紫外可視吸収スペクトルによって確認された。さらに、化学的酸化によって生成したカチオンラジカルの溶液中の安定性を比較したところ,アズレンの3,3’位に置換基を有しないANap-Hのカチオンラジカルが最も安定であった。アセチル基、フェニルチオ基は電子求引性であるため,カチオンラジカルの正電荷が不安定化したためと考えられる。
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