研究実績の概要 |
ナフタレンの構造異性体であるアズレンは分極したπ電子系に由来する特徴的な性質を持ち、特に1,1'-ビアズレンは比較的安定なカチオンラジカルを生成する という性質が知られている。以前に,我々は、1,1’-ビアズレン誘導体のカチオンラジカルが共鳴構造の寄与により比較的安定である点に着目し、1,1’-ビアズ レンとイソベンゾチオフェンから構成されるヘリセンのカチオンラジカルを室温、空気下で安定な固体として単離することに成功した。 本年度の研究では、1,1’-ビアズレンで構成されるヘリセンと縮環させる分子としてフタロシアニンを選択し、そのニッケル錯体を合成した。キラルHPCLにより、純粋な光学異性体が得られた。電気化学測定では、可逆な4段階の酸化波、可逆な2段階の還元波が確認され、7段階の酸化状態を取れることが分かった。さらに、酸化剤によって酸化したのちに測定したESRスペクトルにより、カチオンラジカルの生成を確認した。酸化剤の量によって段階的にカチオン、ジカチオン、トリカチオンが生成していることも確認された。 また、嵩高いメシチル基でアルファ位が立体的に保護されたピロール誘導体と1,1’-ビアズレンで構成されるヘリセンが縮環した分子も合成した。この新規化合物は我々が合成した一連のヘリセン化合物の中で最も酸化電位が低いことがわかった。合成の最終段階の酸化反応で、中性ヘリセン化合物と対応するカチオンラジカルが共に生成するが、ミクロチューブ内で迅速かつ選択的に酸化剤を作用させること、および速やかにカチオンラジカルを還元することによって、目的の中性ヘリセン化合物を高収率(約90%)で得ることに成功した。また、このヘリセン化合物の光学分割にも成功した。
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