研究実績の概要 |
光学活性ヘリセンは、らせん不斉と拡張パイ電子系に由来する様々な特長を持つ機能性化合物として盛んに研究されている。とりわけ、ヘリセンのラジカルは不斉と不対電子スピン(常磁性)の両方を有するという特異性から、非常に興味深い化学種である。しかし、ヘリセンのラジカルは不安定で合成が難しいため、詳しく研究された例は極めて限られている。 一方,ナフタレンの構造異性体であるアズレンは分極したπ電子系に由来した特徴的な性質を有し,アズレン2分子からなる1,1’-ビアズレンは比較的安定なカチオンラジカル種の生成が報告されている.本研究では電子供与性ヘテロールであるピロールのα位をメシチル基で立体的に保護した誘導体がヘリセンと縮環したAIBPyr-Mesを設計・合成した.その狙いはヘリセンラジカルの長期安定化,カチオンラジカルおよび中性ラジカルの構造・物性の精査である.カチオンラジカル状態からピロールのアミンプロトンの脱離により,中性ラジカルが生成することを期待した.X線結晶構造解析によりAIBPyr-Mesのらせん構造を確認し,キラルHPLCによる光学分割にも成功した.電気化学測定では、AIBPyr-Mesは可逆な2段階の酸化波を示した。さらに化学酸化剤を用いた反応により,AIBPyr-Mesのカチオンラジカルの生成と安定性を確認し,単離に成功した. AIBPyr-MesのカチオンラジカルのESRスペクトルやDFT計算などに基づいた考察から,π電子系全体に不対電子のスピンが広く非局在化すること、アズレン部の7員環が芳香族性のトロピリウム構造を取る共鳴構造が有利であること、ピロールの電子供与性が正電荷を中和することなどが高い安定性の要因であると考えられる。
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