研究課題/領域番号 |
21K05042
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
加藤 真一郎 滋賀県立大学, 工学部, 准教授 (70586792)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ジラジカル / 酸化還元 / ヘテロ元素 / キノジメタン / 複素芳香環 / ラジカルカチオン / 有機半導体 |
研究実績の概要 |
「基底開殻一重項ジラジカロイド」は,二つの不対電子が非局在化した電子構造の寄与をもつ開殻π電子系化学種である。ジラジカロイドは通常の閉殻分子に比べて,光吸収特性や酸化還元特性に優れ,電子機能材料としての潜在性を秘めている。特に,ヘテロ元素を導入することにより,ジラジカロイド特有の開殻性とヘテロ元素の特徴が融和して,新たな機能や現象の発見につながると予想される。しかし,ジラジカロイドの多くは開殻性ゆえに不安定であることに加え,化学修飾法/骨格構築法も限られているため,物質開拓が十分に進んでいるとは言えない。本研究では,我々が独自に開発したヘテロπ電子系ジラジカロイドであるジフルオレノフラン(DFFu)を足がかりとして,誘導体の合成および物性と反応性の探究を通じ,多彩なジラジカロイドを創製することを計画している。 研究初年度は,ジフルオレノフランの酸素原子を硫黄原子や窒素原子に換えた分子の合成に取り組み,その経路を確立した。ヘテロ元素の違いにより開殻性が異なることを実験と理論の両面から明らかにした。これらを活性層とするトランジスタ素子を作製し,両性の半導体材料として働くことを見出した。 硫黄原子を含むジラジカロイドであるジフルオレノチオフェン(DFTh)の酸化反応を検討し,用いる酸化剤の当量数により,スルホキシドとスルホンへと変換できることがわかった。酸化の程度が増すにつれて開殻性が増大した。 反応性の探究の観点から,幾つかのラジカル試薬との反応に興味をもった。手始めに,水素化トリブチルスズとDFThの反応を検討した結果,炭素五員環部分で位置選択的にラジカル水素化を起こすことがわかった。現在,実験と理論の両面から反応機構を解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の項目に関して計画通り研究を行い,期待した成果が得られた。 ・ヘテロ元素として硫黄や窒素を含む縮合多環ジラジカロイドの効率的合成経路を確立し,そのジラジカル性が,ヘテロ元素の種類に応じて明確に異なることを実験的に明らかにした。 ・DFThの酸化反応に成功した。mCPBAを用いた反応により,スルホキシドとスルホンが得られ,それらの単結晶X線構造解析や分光学的測定により構造と開殻性の相関に関する知見を得た。 ・ヘテロπ電子系ジラジカロイドと水素化トリブチルスズの位置選択的ラジカル水素化反応を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
・ヘテロπ電子系ジラジカロイドの反応性を積極的に探索する。具体的には,種々のラジカル試薬との反応やハロゲン化反応を検討する。これにより,ジラジカロイドの開殻性に特有の新反応を開拓するとともに,化学変換の方図を模索する。 ・上記の検討で得られると予想しているハロゲン化物を用い,遷移金属触媒反応を用いたクロスカップリング反応を実現する。 ・中性のジラジカロイドに留まらず,正電荷を有するジラジカロイドの開発を目指す。具体的には芳香族アミンをモチーフとしたジカチオンジラジカロイドを開拓する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)研究室および所属研究機関で現有している試薬(金属触媒等)および測定機器(分光および電気化学測定装置など)を用いることで,当初の予想以上に円滑に研究を進めることができたため,2022年度に使用額が生じた。 (使用計画)2021年度と同様に,2022年度も研究費は主に消耗品費として用いる予定である。これは,有機合成を土台とする本研究内容の性質上,合成実験に必要な有機化合物試薬,有機溶媒,金属試薬,ガラス器具等を,随時購入する必要があるためである。また,得られた研究成果の学会発表のための国内旅費にも,研究費の一部を割り当てる予定である。
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