研究課題
昨年度の研究において,我々が独自に開発したヘテロπ電子系ジラジカロイドであるジフルオレノチオフェン(DFTh)の反応性を予備的に検討し,水素化トリブチルスズとの位置選択的なラジカル水素化反応が起こることを見出していた。研究二年目は,この結果を踏まえて新たにAIBNに代表されるアゾラジカル開始剤との反応を検討した。その結果,アゾラジカル開始剤の熱分解により生じるモノラジカルは,水素化トリブチルスズの場合とは異なり,外周部六員環の炭素原子上で反応することを見出した。さらに,AIBNと水素化トリブチルスズを組み合わせたワンポット反応,続く脱水素化反応により,ジラジカロイドを基質として置換誘導体へと導くことに初めて成功した。研究初年度に合成したジフルオレノピロール(DFPy)の異性体(DFPy-iso)を設計し,その合成法を確立した。種々の分光学的,および磁気的検討により,DFPyとDFPy-isoではラジカル中心の位置が同じであるにもかかわらず,ジラジカル性に顕著な違いがあることを見出した。このジラジカル性の違いは,カプトデーティブ効果の程度に由来すると解釈している。また,DFPy-isoにおいて明確な反芳香族性の発現を見出し,ジラジカル性と反芳香族性の関連性について新たな知見を得た。カチオン性ジラジカルへの展開を視野に入れ,テトラフェニル-para-フェニレンジアミンをモチーフとしたカチオン種の合成に取り組んだ。具体的には,硫黄と炭素で架橋したダブルヘリカル構造を有する分子を設計し,その化学酸化に取り組んだ。その結果,一電子酸化によって安定なラジカルカチオンが得られ,その正電荷と不対電子が高度に非局在化していることを見出した。ジカチオンは難溶性のために合成・単離に至っておらず,現在は別の分子をジカチオンに導くことを検討している。
2: おおむね順調に進展している
以下の項目に関して計画通り研究を行い,期待した成果が得られた。・これまでに検討例が少なかったジラジカロイドのラジカル反応に取り組み,位置選択的なラジカル反応が起こることを見出した。反応性の観点からジラジカル性を立証した稀有な例である。・ジフルオレノピロール(DFPy)の異性体としてDFPy-isoを合成し,後者のジラジカル性が前者よりも高いことを明らかにした。ヘテロ原子と不対電子の相互作用の違いを操ることによりジラジカル性が制御可能であることを示した分子として,DFPy-isoは本研究で重要な位置を占める。・窒素原子を二つ含む3次元ヘテロπ電子系として,硫黄と炭素で架橋したテトラフェニル-para-フェニレンジアミンを合成し,ラジカルカチオンへと導いた。ダブルヘリカル構造を有する開殻種として希少な例であり,ジカチオン性ジラジカルへの糸口を掴んだ。
・遷移金属錯体を用い,ヘテロπ電子系ジラジカロイドを基質とするC-CおよびC-N結合形成反応を検討する。予備的な検討により,ジラジカロイドのハロゲン化反応が進行することを見出しており,準備状況は順調である。・位置選択的なラジカル置換反応で導入できた置換基は誘起効果をもつもののみであった。π電子系置換基を導入し,共鳴効果によって物性を大きく変化させることを目指す。また,中間相を発現させ,ジラジカロイドをソフトマテリアルへと展開する道筋を探る。・独自に開発した架橋トリフェニルアミンの二量体を合成し,その化学酸化によりジカチオンジラジカロイドへと導き,中性のジラジカロイドを補完する。
研究室および所属研究機関で現有している試薬(金属触媒等)および測定機器(分光および電気化学測定装置など)を用いることで,当初の予想以上に円滑に研究を進めることができたため,2023年度に使用額が生じた。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
Chem. Commun.
巻: 59 ページ: 1301-1304
10.1039/D2CC06144A
Chem. Sci.
巻: - ページ: -
10.1039/D3SC00381G
Angew. Chem. Int. Ed.
巻: 61 ページ: e202206680
10.1002/anie.202206680
https://sites.google.com/view/shin-ichiro-katousp/home