研究実績の概要 |
ビナフチルに[5]ヘリセンを連結した分子を合成し、その構造とキラル光学特性の関係を調査した。合成した分子は、基底状態および励起状態の双方においてC2対称構造を持ち、磁気遷移双極子モーメントおよび電気遷移双極子モーメントが平行(または反平行)に制御される。そのため、円二色性スペクトル(CD)および円偏光発光スペクトル(CPL)において比較的高い非対称性因子(g値)を示すに至った。また、面不斉[2.2]パラシクロファンに4つカルバゾールフェニルを導入したキラル分子を合成した。この分子はπ共役系高分子のキラル誘起剤として機能することがわかった。実際に、市販のポリ[(9,9-ジ-n-オクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-alt-(ベンゾ[2,1,3]チアジアゾール-4,8-ジイル)] (F8BT)に対して3wt%の割合でドープしたところ、CPLスペクトルにおいてg値が著しく向上した(glum = 0.01)。 期間全体を通じ、高い対称性を持つ軸不斉ビナフチルおよび面不斉[2.2]パラシクロファンをキラル源とした拡張型π共役系化合物をいくつか合成し、CPL特性の向上を達成した。特に励起状態でも高い対称構造が期待される化合物は、高いglum値が観測された。円偏光を利用した発光デバイスを視野に、輝度が高い分子の合成も行った。キラルなビナフチルおよび[2.2]パラシクロファンをビフェニルでπ拡張した分子群を合成した。通常、量子収率の向上は電気遷移双極子モーメントの増加を伴うため、glum値とトレードオフの関係にある。剛直性の高いキラル環状構造を利用することで、glum値の低下を抑えつつ、量子収率を向上させ、高いCPL輝度(Bcpl > 100)を達成した。
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