研究実績の概要 |
2021年度までの研究で、本課題の目的である「構造相転移を利用した、繰り返し動作可能な有機単結晶アクチュエータの開発」を達成することができた。具体的には、1, 2, 4, 5-四臭化ベンゼン(以下TBB)の単結晶ファイバーの温度誘起構造相転移を利用して、複数回繰り返し動作が可能なアクチュエータを開発した。2022年度は、このアクチュエータの性能評価を行ったところ、高出力であるのみならず、動作速度が非常に速いことが明らかになった。これは、TBBの構造相転移が非常に高速で進展することを示している。 有機単結晶では、母相中に生じた娘相が、どのような時間スケールで、どのように成長することで相転移が進展・完了するのかについて、ほとんど分かっていない。そこで2023年度は、TBB単結晶を用いて構造相転移の進展を観測することを試みた。この目的のために、偏光顕微鏡と高速度カメラを組み合わせた装置の開発を行った。この装置を用いると、相転移による結晶の僅かな複屈折の変化を捉えることできるため、娘相の発生とその成長を2μs以下の時間分解能で直接動画として撮影することが可能になる。 本装置を用いてTBB単結晶の構造相転移を観測したところ、相転移の開始と共に結晶端に娘相が発生し、母相と娘相の境界が結晶中を移動することで相転移が進展することが分った。相境界の移動速度は、700m/s程度に達した。有機結晶の構造相転移が相境界の高速移動により進展することを直接観測することに成功したのは、本研究が初めてである。 また、相境界の移動速度は、結晶の品質に強く依存し、結晶の品質と共に上昇することが分った。現在、より高品質の結晶を得ることを試みている。これらの実験結果に基づいて、有機結晶の構造相転移のメカニズムと、その速度を支配する因子について、理論的解析を行っている。
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